飲食店を閉店する前に確認したいチェックリスト|7ステップで手続きと流れを解説

飲食店を閉店する際には、家賃や原状回復工事の費用だけでなく、従業員や取引先への対応、行政手続きまで多岐にわたる準備が必要です。漏れなく進めるには流れを整理し、順序立てて対応することが欠かせません。本記事では、飲食店を閉める前に確認したいチェックリストを7つのステップに分け、必要な手続きや注意点を具体的に解説します。
飲食店閉店の7ステップ
飲食店を閉店する際には、大きく分けて7つのステップを踏んで進める必要があります。
これらのステップを順序立てて進めることで、余計なコストやトラブルを避け、閉店手続きを円滑に完了できます。
ステップ1:閉店方針を固める
閉店に向けた最初のステップは、基本的な方針を明確にすることです。閉店日や閉店理由、閉店の形態を整理し、法人か個人事業主かによる手続きの違いも確認しておく必要があります。
閉店日の決定
閉店日は、賃貸借契約の解約予告期間や、従業員への解雇予告義務(労働基準法第20条で原則30日前)を考慮して決定します。通常は2~3か月前から逆算してスケジュールを組むのが適切です。曖昧なまま進めると、賃料の二重払いといった余計なコストが発生するリスクがあります。
閉店理由・形態の整理(完全閉店/居抜き売却/事業譲渡)
「完全閉店」するのか、「居抜き売却」で店舗設備を次の事業者に引き継ぐのか、あるいは「事業譲渡」として運営自体を第三者に引き継ぐのかを明確にしましょう。
完全閉店:原状回復工事や設備撤去費用が発生 居抜き売却:内装・設備を譲渡できるため、撤退コスト削減が可能 事業譲渡:顧客や従業員も含めて事業を承継できるケースがある |
目的や資金状況によって最適な選択肢は変わるため、早期の判断が重要です。
法人か個人かによる手続きの違いを確認
閉店手続きは、法人と個人事業主で大きく異なります。
個人事業主 | 税務署への廃業届出書提出、青色申告の取りやめ届、社会保険・雇用保険の資格喪失手続きなど |
法人 | 株主総会での解散決議、法務局での解散登記、清算手続き、法人税申告など、より複雑な流れ |
どちらの場合も、行政や関係機関への届出が必要になるため、閉店方針を決めた段階で大枠を把握しておくと後の対応がスムーズになります。
ステップ2:契約と費用の把握
閉店を進めるうえで最も大きな負担になるのが、賃貸契約や原状回復工事に関わるコストです。契約内容を正確に確認し、全体像を把握したうえで見積もりを立てることが重要です。
賃貸借契約の確認と解約予告
まずは賃貸借契約書を見直し、解約予告の期限を確認しましょう。多くの場合、3か月前予告が一般的ですが、6か月前を求めるケースもあります。解約通知が遅れると、不要な家賃を支払うリスクがあるため、早めの確認と貸主への連絡が欠かせません。
リース契約・保証金の確認
厨房機器や内装でリース契約を結んでいる場合は、残債の有無を必ず確認しましょう。リースは中途解約できないことが多く、残りの期間分の支払いが必要になるケースがあります。また、契約時に支払った保証金・敷金は、原状回復後の状態確認を経て返還されますが、修繕費に充当されることもあるため、返還条件を事前に把握しておくことが大切です。
原状回復工事の範囲と費用試算
飲食店の閉店では、スケルトン工事を含む原状回復工事が求められるのが一般的です。厨房設備や排気ダクト、給排水設備の撤去など、飲食店特有の工事項目は費用が高額になりがちです。
費用相場:坪単価20~50万円程度(立地・規模により変動)
工事範囲は契約書で細かく規定されているため、貸主と認識を揃え、複数業者から見積もりを取って比較検討しましょう。
閉店コスト全体の見積もり
家賃や原状回復工事費だけでなく、以下のようなコストを一覧化し、資金繰りを明確にしておきます。
- リース残債
- 人件費の精算(解雇予告手当含む)
- 仕入れ先への支払い
- 公共料金や通信費の精算
- 設備撤去・処分費
場合によっては、居抜き売却や事業譲渡を活用することで撤退コストを軽減できる可能性もあります。
ステップ3:従業員・取引先・顧客への対応
閉店を決めた後は、関係者への適切な対応が求められます。従業員・取引先・顧客にきちんと告知を行わなければ、信頼を損ねたり、トラブルにつながる可能性があります。
従業員への告知と解雇手続き(労基法のルール)
従業員には、閉店を決定した段階で速やかに告知します。労働基準法第20条では、解雇の30日前までに予告する義務が定められており、守れない場合は平均賃金30日分の解雇予告手当(平均賃金×30日分)を支払う必要があります。
また、以下の手続きも併せて行いましょう。
- 社会保険・雇用保険の資格喪失手続き
- 離職票の交付
- 給与・退職金の精算
誠意を持って説明し、従業員の生活への影響を最小限にとどめる対応が不可欠です。
取引先・仕入れ業者への通知と調整
仕入れ業者や取引先には、契約終了や今後の取引停止をできるだけ早く伝えましょう。納品の最終日や未払い分の清算方法を明確にし、双方で合意を取ることが大切です。急な連絡はトラブルにつながるため、閉店の1~2か月前には通知するのが適切です。
顧客への告知(店頭・SNS・グルメサイト情報更新)
顧客に対しては、以下の方法で告知します。
- 店頭での掲示やチラシ配布
- 公式SNSでの告知
- グルメサイトの店舗ページ更新
「閉店セール」や「感謝キャンペーン」を併せて実施することで、在庫処分と顧客への感謝の両立ができます。また、グルメサイトに閉店情報を反映させないと、来店希望者が誤って訪れる可能性があるため、必ず更新しておきましょう。
ステップ4:閉店スケジュール作成・在庫備品整理
閉店作業を円滑に進めるためには、全体のスケジュールを立て、在庫や備品の整理を計画的に行うことが欠かせません。後回しにすると余分なコストや混乱が生じるため、早めに着手しましょう。
タスクスケジュールを作成する
閉店日から逆算し、必要な手続きをリスト化しましょう。
- 行政手続きの提出期限
- 原状回復工事の依頼・日程調整
- 在庫処分や備品売却の開始時期
- 光熱費や通信契約の解約日
項目ごとに期限を明確にすることで、漏れなく効率的に進められます。
在庫・備品・厨房機器の処分/売却
在庫食材は廃棄ロスを防ぐため、閉店セールやメニュー調整で計画的に消化します。残った分は廃棄か、業者に買取を依頼しましょう。
厨房機器や家具・什器は、中古買取業者やリユースサービスを活用することで処分費用を抑えられます。特に飲食店専用の機器は需要があるため、売却益が閉店費用の一部に充てられる可能性があります。
光熱費・通信回線・ゴミ収集契約の停止
以下の契約について、閉店日を基準に停止手続きを行います。
- 電気・ガス・水道(各供給会社)
- インターネット・電話回線(通信事業者)
- ゴミ収集(自治体・回収業者)
解約手続きが遅れると、不要な基本料金を支払うことになるため注意が必要です。
ステップ5:行政・法的手続き
飲食店を閉店する際には、各行政機関や法的な手続きを漏れなく進める必要があります。提出期限が定められているものも多いため、閉店スケジュールに合わせて計画的に進めましょう。
保健所への廃業届・営業許可証の返納
飲食店営業許可は営業を続けるために必要なもので、閉店時には営業許可証の返納と廃業届の提出が義務づけられています。提出先は店舗所在地を管轄する保健所です。期限は明確に法律で定められていませんが、閉店日から10日以内を目安に届け出るのが一般的です。
警察署・消防署への廃止届や許可返納
深夜酒類提供飲食店営業や風俗営業を行っていた場合は、所轄警察署に営業廃止届出書を提出する必要があります。また、防火対象物使用開始届を出していた場合や火気設備に関する許可を受けていた場合は、消防署に廃止届や許可の返納を行わなければなりません。
対象 | 必要な手続き | 提出先 | 提出期限 |
---|---|---|---|
深夜酒類提供飲食店営業風俗営業 | 営業廃止届出書の提出 | 所轄警察署 | 廃止日から10日以内 |
防火対象物使用開始届を提出していた場合 | 廃止届の提出 | 所轄消防署 | 廃止後速やかに |
火気設備に関する許可を受けていた場合 | 許可の返納 | 所轄消防署 | 廃止後速やかに |
税務署への廃業届・青色申告の取りやめ
個人事業主は、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。青色申告をしていた場合は、「青色申告の取りやめ届出書」も必要です。提出期限は廃業日から1か月以内とされています。
社会保険・雇用保険の資格喪失届
従業員がいる場合は、社会保険(健康保険・厚生年金)の資格喪失届を資格喪失日から5日以内に日本年金機構へ提出します。
雇用保険についても、資格喪失届を10日以内にハローワークへ提出する義務があります。従業員がスムーズに失業給付を受けられるよう、離職票の交付も忘れてはいけません。
法人の場合の解散登記や清算手続き
法人で飲食店を運営している場合は、個人事業主よりも手続きが複雑です。
- 株主総会で解散決議
- 法務局に解散登記を申請
- 清算人を選任
- 債務整理や残余財産の分配
- 法人税等の申告
- 清算結了登記(法人格消滅)
専門家(司法書士や税理士)のサポートを受けながら進めるのが一般的です。
ステップ6:原状回復・引渡し
閉店にあたり、店舗を貸主に返すためには原状回復工事や設備撤去などの対応が必要です。条件を正しく把握し、余分な費用やトラブルを避けながら引渡しを進めましょう。
原状回復条件を貸主と確認
まずは賃貸借契約書に記載された原状回復義務の範囲を確認します。内装をすべて撤去してスケルトンに戻すのか、簡易的な修繕で済むのかは契約内容によって異なります。曖昧な部分は早めに貸主と話し合い、双方の認識を一致させることが重要です。
見積もり取得・工事手配
原状回復工事は、業者によって見積もりに差が出やすい分野です。複数社から相見積もりを取り、工事内容や費用を比較検討しましょう。貸主が指定業者を求めるケースもあるため、事前に確認しておく必要があります。工期についても閉店日から逆算して余裕を持って依頼することが大切です。
設備撤去・残置物処理
厨房機器や看板、什器などは原則撤去が必要です。処分費用は高額になる場合があるため、中古買取業者やリユースサービスを活用してコスト削減を検討しましょう。残置物を残したまま引渡すと、後から撤去費用を請求される可能性があるため注意が必要です。
居抜き売却をする場合の譲渡契約
設備や内装を次の入居者に引き継ぐ「居抜き売却」を選ぶ場合は、譲渡契約書を締結し、譲渡範囲・金額・引渡し日を明確に定めます。貸主の承諾が必要になるケースが多いため、早めに相談し、三者間で合意を取って進めるのが望ましいです。
鍵返却・引渡し確認
工事や撤去が完了したら、貸主立会いのもとで店舗の状態を確認します。問題がなければ鍵を返却し、引渡し確認書に署名して完了となります。ここで不備があると追加費用を求められることもあるため、引渡し時の写真を残しておくと安心です。
ステップ7:閉店後の整理
店舗の引渡しが終わった後も、精算や会計処理など、やるべきことは残っています。閉店を最終的に完了させるために、次のポイントを確認しておきましょう。
未払い請求・リース残債の精算
仕入れ先への未払い分やリース契約の残債を整理し、債務を清算します。支払い漏れがないよう、取引先リストを作成して一つずつ確認することが重要です。
光熱費・公共料金の最終請求確認
電気・ガス・水道、通信回線などの最終請求を確認し、未払いがないようにします。解約手続き後も1~2か月は請求が続く場合があるため、注意深く確認しましょう。
書類・契約書の整理と保管(7年推奨)
税務調査に備え、以下の書類は少なくとも7年間保管することが推奨されます。
- 帳簿(現金出納帳、売掛帳、買掛帳など)
- 契約書(賃貸借契約書、リース契約書など)
- 領収書・請求書
- 給与台帳
- 税務申告書
翌年の確定申告・会計処理準備
廃業後も確定申告は必要です。帳簿・領収書などを整理し、スムーズに対応できるよう準備しておきましょう。個人事業主の場合は翌年の3月15日が申告期限となります。
印刷して使える!飲食店閉店チェックリストPDF
本記事で紹介した7つのステップを、チェックボックス付き+期限目安入りで整理した実用的なPDFをご用意しました。閉店準備を進める際に、必要なタスクを一つずつ確認しながら進められる内容になっています。
印刷して手元で確認するのはもちろん、パソコンやスマートフォンでチェックを入れながら活用することも可能です。閉店までのスケジュール管理やタスクの抜け漏れ防止にぜひお役立てください。
飲食店閉店チェックリストを活用して安心して店舗を締めくくろう
飲食店を閉店する際には、賃貸契約の解約や原状回復工事、従業員・取引先への対応、行政手続きなど、幅広いタスクを計画的に進めることが求められます。本記事で紹介したチェックリストを活用すれば、流れを整理し、余分な費用やトラブルを防ぎながら閉店を進められるでしょう。
とはいえ、飲食店の撤退は精神的にも経済的にも大きな負担が伴います。少しでもコストを抑えたいときは、居抜き売却や事業譲渡といった選択肢を検討するのも有効です。
「居抜きの神様」では、飲食店の閉店・撤退に関するご相談から、居抜き物件の査定・買取まで幅広く対応しています。無料査定も行っていますので、店舗の整理にお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
コメント