閉店で従業員を解雇する際の通知文例。通知書の期限や書き方、注意点
経営悪化でやむを得ず閉店することになった場合、従業員に解雇予告通知書を交付し、解雇手続きを進めるのが一般的です。解雇予告は口頭でも行えますが、トラブルを防ぐためにも書面で交付すると良いでしょう。
今回は、従業員の解雇の種類や解雇の条件、解雇の方法や期限を解説します。解雇予告通知書の書き方や通知例文、解雇時の注意点、従業員の解雇後に必要な手続きにも触れていきます。
従業員の解雇の種類
従業員の解雇の種類は「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」「論旨解雇」に分けられます。閉店時に用いられるのは「整理解雇」です。まずは、それぞれの解雇の特徴を紹介します。
普通解雇
普通解雇とは、従業員が本来の労務を提供できていない場合に用いられる解雇方法です。具体的には、下記のような場合に普通解雇が検討されます。
- 無断欠勤や遅刻を繰り返している
- 病気やケガにより業務を行えない
- 極端に協調性がないなどの能力不足がみられる
- 業務命令に違反している
ただし、解雇には合理的な理由を求められます。労働契約法16条「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とあるように、急な解雇では認められない場合があるため、従業員の問題点を指摘し、改善を促すといった業務指導を行ったうえでの解雇とする必要があるでしょう。
整理解雇
整理解雇は、経営上の理由による解雇であり、普通解雇とは異なる要件が定められています。。飲食店の存続や閉店など経営状況の悪化による人員整理を目的とした解雇方法です。詳しくは後述しますが、整理解雇を行うには人員整理の必要性や解雇努力の義務遂行などの条件があります。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員が会社の秩序や規律を著しく乱した際に用いられる解雇方法です。具体的には、下記のような場合に懲戒解雇が検討されます。
- 社内での横領や窃盗
- パワハラやセクハラ
- 重大な業務命令違反
懲戒解雇は従業員に非があるため、普通解雇で支払われる手当や退職金の支払い義務がなくなります。ただし、相応の理由がない場合は懲戒解雇として認められません。
論旨解雇
論旨解雇とは、懲戒解雇に準ずる理由があるものの、経営者の酌量により処分を軽減した形で行われる解雇を指します。懲戒解雇に相当する解雇理由があるものの、経営者の酌量で懲戒解雇を避ける場合などに用いられます。話し合いによって自主退職してもらった場合を論旨解雇と呼ぶこともあります。
閉店で従業員を整理解雇する際の条件
先述した通り、経営上の理由(該当店舗の閉店及び譲渡等)による従業員の解雇で用いられるのは「整理解雇」です。整理解雇を行うにはいくつかの条件を満たす必要があります。
人員整理の必要性がある
整理解雇を行うには、人員整理の必要性があると認められる経営上の理由が必要となります。具体的には経営状況の悪化、閉店などが挙げられます。生産性の向上、店舗移転などは利己的な理由とみなされるため、該当しません。
解雇回避の努力義務を果たしている
解雇回避のための努力義務を果たしたかどうかも、整理解雇の条件です。例えば、希望退職者を募る、賃金の引き下げ、出向や配置転換などです。
解雇回避への選択肢があるにも関わらず、経営者の利益のために閉店や解雇をする場合は、整理解雇を認められないおそれがあります。
解雇者の選定に合理性がある
閉店時はすべての従業員を解雇することになりますが、経営悪化などを理由に解雇する場合は、従業員を選定して解雇することになります。その場合、その選定に合理性があるかが求められます。例えば、仕事における能力や勤続年数、年齢などが挙げられます。
解雇手続きに妥当性がある
整理解雇を行う場合は、解雇の理由や時期、方法、人選の基準などを従業員に納得してもらう努力を尽くす必要があります。経営者側と従業員で十分な協議がなされたうえでの解雇としなければなりません。
閉店で従業員を解雇する方法
閉店で従業員を解雇する際は「解雇予告通知書」を従業員に渡すのが一般的です。解雇予告通知書の作成は義務ではありませんが、口頭の場合はトラブルに発展するおそれもあるため、書面にしておくのが良いでしょう。
解雇予告通知書は、従業員に手渡しするか、郵送で交付します。直接手渡しする場合は、通知書を受領したことを証明するために、通知書のコピーに受領日と署名、捺印をしてもらうと安心です。
郵送の場合は、内容証明郵便で送りましょう。内容証明郵便は、郵便局が差出人や宛先、内容、差出日時を証明する郵便であるため、確実に従業員が解雇予告通知書を受け取ったことを証明できます。
なお、解雇予告通知は、使用期間中の従業員を除き、アルバイトやパートの従業員にも行う必要があります。
閉店で従業員を解雇する際の期限
解雇予告通知書で従業員を解雇する場合は、30日以上前に予告する必要があります。解雇通知書を用いる場合は即日解雇も可能ですが、解雇予告手当を従業員に支払う必要が発生します。
解雇予告通知書の場合は30日以上前
労働基準法第20条では「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない」と定められており、解雇予告は原則として30日以上前に行う必要があります。
30日の数え方は、従業員が解雇予告通知書を受け取った日の翌日から30日。会社の休日も含めて数えます。
解雇予告が30日に満たない場合は、「解雇予告手当」として日数分の平均賃金を従業員に支払う必要があります。
解雇通知書の場合は即日解雇可能
解雇予告通知書は事前に解雇の意思を通知する書類ですが、解雇通知書は予告なしに解雇の意思を通知する書類です。解雇通知書を交付した場合は、従業員を即日解雇することが可能です。
ただし、解雇予告手当として30日分の平均賃金を従業員に支払う必要があります。また即日解雇は例外的に認められるものであり、事前の協議や合意がない場合、不当解雇と判断されるリスクがありますので注意が必要です。
閉店で従業員に渡す「解雇予告通知書」の書き方&項目
解雇予告通知書の書き方に、正式な決まりはありませんが、下記の項目を含めるのが一般的です。
・解雇予告通知書の作成日(手渡す日もしくは発送日)
・解雇する従業員の氏名
・社名と代表名
・社印の捺印
・解雇日
・解雇の意思を示す文言
・解雇理由
・解雇の根拠となる就業規則の条文
解雇予告は口頭でも行えますが、上記の項目を含めた書面を残しておけば、後々に言った・言わないといったトラブルを防げます。
また、トラブル防止はもちろん、従業員に納得してもらえるように、解雇予告通知書を交付する際は誠意をもって伝えることが大切です。
閉店で従業員に渡す「解雇予告通知書」の通知文例
解雇予告通知書に含める項目を把握できたとしても、実際にどのように記載すれば良いか迷う場合もあるでしょう。そこで、閉店時に従業員に渡す解雇予告通知書の通知文例を紹介します。
令和〇年〇月〇日
解雇予告通知書
〇〇 〇〇殿(従業員氏名)
〇〇〇(社名)
代表取締役 〇〇 〇〇 印
当社は厳しい経営状況を打開すべく、これまで経費削減や資産売却、新規雇用の停止、希望退職者の募集などの経営努力を続けてきましたが、明るい見通しが立たず、この度、〇〇を閉店することに決定いたしました。
誠に遺憾ながら貴殿の雇用継続が困難となったため、就業規則第○条○号に基づき、令和○年○月○日をもって、貴殿を解雇することを通知いたします。なにとぞ、ご理解ご協力をお願いいたします。
先述した通り、解雇予告通知書は、原則30日以上前に交付する必要があります。30日に満たない場合は解雇予告手当を支払う必要があるため、「解雇予告手当金は、貴殿の給与振込口座に送金いたします」など、手当の支払いについても記載しましょう。
従業員を解雇する際の流れ
閉店で従業員を解雇する際は、店舗がなくなるため解雇予告通知書にて解雇の手続きを一気に進めます。一方、業績悪化による人員削減などで解雇を検討している場合は、下記のように退職勧告などから進めていく場合もあります。
従業員と話し合い、自主退職という形をとることを奨めます。
労働基準法や就業規則に反していないか、不当解雇に該当しないかを確認します。従業員とも不当な解雇でないことを確認し、双方が納得した手続きであることを明らかにします。また、退職金や手当が発生する場合はその内容も伝えます。
解雇予告通知書を作成し、従業員に交付します。
閉店で従業員を解雇する際の注意点
閉店で従業員を解雇する際は、トラブルに発展しないように法的要件を守ったり、従業員と十分なコミュニケーションをとったりすることが重要です。解雇前に把握しておきたい注意点をみていきましょう。
法的要件を守って解雇手続きを進める
解雇予告は、労働基準法第20条に定められている手続きです。解雇予告を行わずに従業員を解雇した場合は、労働基準法に違反したとみなされ、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
「原則、30日以上前に予告する」「30日に満たない場合は解雇予告手当を支払う」といった決まりを守り、正しい手続きで解雇を進めましょう。
解雇予告はできるだけ書面に残す
先述しましたが、解雇予告を口頭で行うのは言った・言わないのトラブルを招きかねません。特に、解雇予告をした日と解雇日の認識にズレが生じると、解雇予告手当の有無などに影響するおそれがあります。
解雇予告通知書を作成して書面に残しておくのはもちろん、従業員が受領した証拠を残すことも重要です。繰り返しになりますが、手渡しであれば通知書のコピーに受領日と署名、捺印をもらう、郵送の場合は受領の証拠が残る内容証明郵便を活用しましょう。
誠実な態度で従業員に接する
解雇は従業員の生活に影響を及ぼすおそれがある行為であるため、不遜な態度では反感を買います。トラブルを防止するためにも誠実な態度で取り組み、解雇せざるを得ない状況であることを従業員に理解してもらう必要があります。
解雇を告げる際は、従業員に納得してもらえるように経営状況を説明したり、今までの働きへの感謝を告げたりと丁寧にコミュニケーションをとりましょう。誠実な対応を心がければ、閉店時まで従業員の協力を得ることにもつながるでしょう。
閉店で従業員を解雇した後の手続き
社会保険、雇用保険の適用事業所であった場合は、従業員解雇後に喪失手続きなどを行う必要があります。
健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届の提出
解雇日の翌日から5日以内に、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届、従業員から回収した健康保険証を年金事務所に提出します。
雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書の提出
解雇日の翌日から10日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書を作成し、公共職業安定所(ハローワーク)に提出しましょう。公共職業安定所より離職票が交付されたら、それを従業員に渡します。離職票は、従業員が失業保険を受給する際に必要な書類のため、きちんと手続きを行いましょう。
源泉徴収票の交付
従業員の解雇後、源泉徴収票を作成して交付します。源泉徴収票は従業員が確定申告する場合、再就職先で年末調整する場合に必要な書類のため、必ず交付しましょう。
給与所得者異動届の提出
事業者は、従業員の給与から住民税の天引きする特別徴収により、従業員に代わって納税をしています。しかし、閉店して廃業すると特別徴収ができなくなります。従業員が普通徴収へ切り替えられるように、給与所得者の異動届出書を市区町村に提出しましょう。
提出が遅れると、従業員に納税通知書の送付ができず、督促状が贈られる場合もあるため、速やかに手続きを進めましょう。
閉店による従業員の解雇通知は正しい方法で進めよう
閉店が決定すれば、従業員の解雇は避けられません。解雇を行う際は労働基準法に違反しないように「原則、30日以上前に予告する」「30日に満たない場合は解雇予告手当を支払う」といった決まりを守り、解雇予告通知書を交付しましょう。
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