飲食店の火事で営業停止も?事例でわかる原因・責任・消防法【予防チェックリスト付】

飲食店で火事が起きた場合、営業停止や多額の損害賠償、最悪の場合は閉店に追い込まれることもあります。火災は厨房だけでなく、ダクトや設備の管理不足から発生するケースも少なくありません。本記事では、飲食店火災の原因や実例、消防法上の義務、オーナーの責任範囲を解説し、今日からできる火災予防策を紹介します。

目次

飲食店で火事が起きた場合に直面するリスク

飲食店で火災が発生すると、被害はその瞬間だけで終わりません。営業停止や多額の費用負担、信用低下など、経営に長期的なダメージを及ぼします。

営業停止・休業による損失

飲食店で火事が発生すると、規模の大小にかかわらず営業停止を余儀なくされます。消防や保健所の確認が完了するまで再開できず、その間の売上はゼロです。

一方で、家賃や人件費などの固定費はかかり続けるため、短期間でも資金繰りに深刻な影響を与えます。小規模火災でも営業停止期間は平均2週間から3ヶ月に及び、月商200万円の店舗が2ヶ月休業すれば、売上損失だけで400万円以上になります。

店舗・設備の焼失と復旧費用

火災による被害は、内装や厨房設備だけにとどまりません。配管や電気設備、建物構造部分にまで影響が及ぶと、復旧費用は数百万円から数千万円規模に膨らみます。賃貸物件では原状回復義務が発生し、スケルトン工事が求められる点にも注意が必要です。

信用低下による経営悪化・閉店リスク

火事の発生は、顧客や取引先からの信頼低下につながります。SNSで火災情報が拡散されれば、イメージ回復は困難です。再開できたとしても客足が戻らず、結果的に閉店を選択するオーナーもいます。火災は一時的な事故ではなく、経営そのものを左右する重大なリスクといえるでしょう。

飲食店の火災はなぜ起きる?原因と発生傾向

飲食店の火災は、突発的な事故のように思われがちですが、実際には日常業務の中に原因が潜んでいます。どのような要因で火事が起きやすいのかを知ることで、リスクは大きく下げられます。

飲食店火災に多い主な出火原因

総務省消防庁のデータによると、飲食店火災の出火原因で最も多いのはガスコンロやフライヤーなどの調理設備で、全体の約35%を占めます。油を使用する調理では、加熱中の放置や油への引火が起こりやすく、わずかな不注意が火災につながります。次いで多いのがたばこ(約15%)、放火・放火疑い(約12%)です。

また、電気調理機器の過熱や配線の劣化による発火も一定数見られます。火気を日常的に扱う業態である以上、出火リスクが常に存在する点が飲食店の特徴です。

人為的ミスと設備トラブルの実態

飲食店火災の多くは、単独の事故ではなく、人為的ミスと設備トラブルが重なって発生します。忙しさによる確認不足や、清掃・点検の後回しが積み重なることで、危険な状態が見過ごされやすくなります。

【火災につながる典型的なミス】

  • 調理中のコンロから目を離す
  • 閉店後の火元確認を怠る
  • フライヤー油の温度管理ミス
  • 清掃不足によるダクト内の油汚れ蓄積
  • 消防設備の点検期限切れ

特に人手不足の店舗では、管理が行き届かないまま営業を続けてしまい、結果として火災リスクを高めてしまうケースも少なくありません。

火災が発生しやすい時間帯にも傾向があり、ピークタイム(11:30〜14:00、18:00〜21:00)は調理が集中してミスが起きやすく、深夜営業時間帯(22:00以降)は疲労による注意力低下が見られます。また、閉店後の火元確認不足による出火も報告されています。

厨房だけではない飲食店特有の火元「ダクト火災」

飲食店の火災というと、コンロやフライヤーなど厨房内の火元が想像されることが多いものの、実際には目に見えない場所で火事が発生するケースもあります。その代表例が「ダクト火災」です。気づきにくく、被害が拡大しやすい点が大きな特徴といえます。

ダクト火災の仕組みと危険性

ダクト火災とは、厨房から排出される煙や油分がダクト内部に蓄積し、そこへ火が引火することで発生する火災です。調理時に発生した油煙は、換気とともにダクト内を通過しますが、長期間清掃されていない場合、内部に油汚れが厚く付着します。この油分は非常に燃えやすく、一度火が入るとダクト内部を一気に燃え広がる危険性があります。

ダクト内の温度は通常50〜80℃程度ですが、油汚れが蓄積すると200℃以上になることもあり、自然発火のリスクも高まります。ダクト清掃を6ヶ月以上実施していない、油を多用する調理を頻繁に行う、換気扇の吸引力が弱くなっているといった条件が重なると、ダクト火災の危険性は格段に上がります。

見えない場所で被害が拡大する理由

ダクトは天井裏や壁内部を通っていることが多く、出火してもすぐに気づきにくい構造です。そのため初期消火が遅れ、火が建物全体に延焼するケースも少なくありません。さらに、ダクトは複数階や隣接区画につながっていることがあり、被害が自店舗にとどまらない点も大きなリスクです。実際に、1階の飲食店のダクト火災が原因で、上階の住居まで延焼した事例も報告されています。

ダクト火災を防ぐには、専門業者による定期清掃(最低年2回、理想は3〜4ヶ月ごと)、グリスフィルターのこまめな洗浄(週1回以上)、排気温度の異常上昇への注意が欠かせません。

【実例】火災で全てを失った飲食店オーナーたち

飲食店の火事は、「自分の店では起きない」と考えている間に発生することがあります。実際には、規模の小さな火災であっても、営業継続が困難になるケースは少なくありません。ここでは、火災をきっかけに営業停止から閉店へと追い込まれた飲食店オーナーの実例を紹介します。

事例①:深夜営業中の厨房火災で閉店

都内の居酒屋(従業員5名、月商約250万円)で、深夜営業中に厨房設備から出火しました。早期に消火されたものの、消防の立ち入り検査により営業停止に。内装やダクトの復旧工事に時間と費用がかかり、再開までに4ヶ月を要した結果、資金繰りが悪化しました。火災保険に加入していたものの休業補償が付帯しておらず、固定費の支払いが続く中で貯金が底をつき、閉店を決断しています。

事例②:ダクト火災で建物全体に延焼

地方都市のラーメン店(従業員3名、月商約180万円)では、ダクト内部の油汚れが原因で火災が発生し、天井裏まで延焼しました。店舗自体の損傷は限定的でしたが、建物全体の修繕が必要となり、賃貸契約上の原状回復費用として約1,200万円を請求されました。保険の補償上限を超える金額だったため負担できず、営業再開を断念しています。ダクト清掃を1年以上実施していなかった点が問題でした。

事例③:小規模火災でも信用失墜で客足途絶

住宅街のカフェ(従業員2名、月商約120万円)では、調理中の不注意で小規模な火災が発生。消防車が出動したことで近隣住民やSNSで情報が拡散され、「火事を起こした店」というイメージが定着してしまいました。物理的な被害は軽微で1週間で営業再開できたものの、客足は以前の3割程度まで落ち込み、半年後に閉店を余儀なくされました。

これらの事例に共通しているのは、火災規模が小さくても営業停止が長期化する点、ダクト清掃や設備点検が十分に行われていなかった点、火災保険の補償内容が実態に合っていなかった点です。飲食店の火事は一度発生すると、経営判断を迫られる深刻な局面に直結しやすいことが、実例からも明らかです。

飲食店に課される消防法上の義務と罰則

飲食店は、不特定多数の人が出入りし、火気を日常的に使用することから、消防法上「防火対象物」として厳格な管理が求められます。火災を未然に防ぐための義務を怠った場合、営業に直接影響する指導や処分を受ける可能性があります。

飲食店に求められる消防法上の義務

飲食店では、店舗の規模や用途に応じて、消火器や自動火災報知設備などの消防用設備を備えることが求められています。収容人員30人以上の店舗では、防火管理者を選任し、消防計画を作成する義務があります。(消火器、誘導灯、自動火災報知設備は規模により必須)

さらに、収容人員30人以上の場合には防火管理者を選任し、消防計画を作成して消防署に届け出なくてはいけません。防火管理者は講習を受講し、資格を取得する必要があります。

また、消防用設備は設置した時点で役割を終えるものではなく、継続的な点検(機器点検は6ヶ月ごと、総合点検は1年ごと)と、その結果を消防署へ報告する義務があります。これらの管理が形式的なものにとどまっていると、火災の危険性が高まるだけでなく、消防法違反と判断されるおそれもあるでしょう。

違反時の行政指導・罰則内容

消防法上の義務が守られていない場合、消防署から是正指導や改善命令が出されます。指示に従わない場合には、使用制限や使用停止命令が出され、営業停止に直結するケースもあるでしょう。実際に、消火器の設置義務違反で営業停止3日間、防火管理者未選任で改善命令を無視して罰金50万円といった事例も報告されています。

さらに、重大な違反や虚偽報告があった場合には、最大1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となることもあります。飲食店にとって消防法違反は単なる指摘にとどまらず、経営リスクとして正しく認識しておくことが重要です。

火事を起こした飲食店オーナーの賠償責任範囲

飲食店で火事が発生した場合、問題となるのは店舗の被害だけではありません。契約関係や周囲への影響に応じて、オーナーが負う賠償責任の範囲は広がります。

貸主・近隣への損害賠償責任

賃貸物件で火災を起こした場合、飲食店オーナーは貸主に対して原状回復義務を負います。内装や設備の損傷に加え、スケルトン工事が必要となるケースもあり、費用負担は500万円から1,500万円、建物構造部分まで損傷が及べば1,000万円以上になることも珍しくありません。

また、火災の影響が隣接する店舗や住居に及んだ場合、近隣への損害賠償責任が発生する可能性もあります。隣接店舗の休業損失、上階住民の家財・建物損傷、避難や消火活動による損害などが対象となります。さらに、従業員や来店客が負傷した場合には、治療費や休業補償などの責任を問われることもあり、被害の範囲は想定以上に広がる点に注意しなくてはいけません。

日本には「失火責任法」という法律があり、通常の失火(過失)であれば民法上の損害賠償責任は免除されます。ただし、「重過失」と判断された場合は適用されず、全額賠償責任を負います。重過失と判断される可能性が高いのは、消防設備の点検を長期間怠っていた、ダクト清掃を1年以上実施していなかった、火気使用中に長時間その場を離れた、消防法違反を指摘されていたのに放置していたといったケースです。

保険で補償される範囲と限界

火災保険や賠償責任保険に加入していれば、一定の損害については補償を受けられます。しかし、すべての損失が自動的に補填されるわけではありません。補償内容や上限額によっては、原状回復費用や休業損失、第三者への賠償をカバーしきれない場合もあります。

保険の種類補償内容注意点
火災保険(店舗総合保険)建物・設備・什器の損害補償上限額以内のみ
店舗休業保険 (休業損害保険)営業停止期間の利益や固定費補償特約として追加が必要
借家人賠償責任保険貸主への原状回復費用(法律上の損害賠償責任を負った場合)損害額ではなく、契約の上限額以内のみ
施設賠償責任保険第三者への人身・物損の賠償被保険者の重過失(例:故意に近い場合)は対象外の場合あり

保険に加入しているという理由だけで安心せず、補償範囲と限界を把握しておくことが、火災後の経営判断に大きく影響します。特に、休業損害保険や借家人賠償の上限額は、実際の損失をカバーできるか事前に確認しておくべきでしょう。

今日から始める飲食店の火災予防策【チェックリスト付】

飲食店の火災は、特別な設備投資をしなくても、防げるケースが少なくありません。日々の業務の中で行う点検や管理を徹底することが、火事のリスク低減につながります。

日常的にできる火災予防対策

火災予防の基本は、火気や設備を「使いっぱなし」にしないことです。調理後の火元確認や、油汚れの清掃を習慣化するだけでも、出火リスクは大きく下がります。

調理中は火を使用中に調理場を離れない、フライヤー温度を定期確認する、油の飛散はすぐに拭き取るといった基本動作が重要です。営業終了後には、全ての火元(ガス・電気)の元栓を確認し、コンロ周辺の油汚れを清掃、ゴミ箱に火種がないか確認します。週1回はグリスフィルターの洗浄、消火器の位置と使用期限確認、避難経路に障害物がないか確認を行いましょう。

また、ダクトや換気扇の清掃を定期的に行い、異音や異臭といった異常に早く気づける体制を整えることも重要です。従業員任せにせず、オーナー自身が状況を把握する姿勢が、事故防止につながるでしょう。

最低限確認すべき防火チェックリスト

以下は、飲食店で最低限確認しておきたい防火項目です。月に1回、このリストを使って店舗全体をチェックすることをおすすめします。

【飲食店防火チェックリスト】
火気・調理設備・調理終了後、ガス・電気の元栓を確実に閉めているか
・コンロ周辺やフライヤーに油汚れが蓄積していないか
・調理機器の異音・異臭はないか
・電気コードに損傷や過度な屈曲はないか
換気・ダクト・ダクト・換気扇の清掃を定期的に行っているか(最低年2回)
・グリスフィルターは週1回以上洗浄しているか
・換気扇の吸引力は十分か
消防設備・消火器の設置場所と使用期限を把握しているか
・消火器の使い方を全従業員が理解しているか
・自動火災報知設備が正常に作動する状態か
・消防設備の点検を期限内に実施しているか
防火管理・従業員が初期消火や通報手順を理解しているか
・避難経路に障害物はないか
・閉店後の火元確認を責任者がダブルチェックしているか
その他・可燃物(段ボール、布巾など)を火気の近くに置いていないか
・喫煙所が設置されている場合、灰皿に水を入れている

これらを定期的に確認することで、火災の発生リスクを抑えるだけでなく、万が一の際の被害拡大防止にもつながります。

飲食店の火事は「防火・保険・判断力」で差が出る

飲食店の火事は、防火対策や日常管理を徹底することで、リスクを大きく下げることができます。また、万が一に備えた保険の内容を正しく把握しておくことも、被害を最小限に抑えるためには欠かせません。火災は偶然ではなく、備えの有無によって結果に大きな差が生じます。

それでも、火事をきっかけに営業再開が難しくなるケースもあります。そのような場合は、無理に継続を目指すだけでなく、閉店や撤退を含めた判断を行うことも重要です。居抜きでの売却を選べば、原状回復費用を抑えながら次の一歩につなげることができます。

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この記事を書いた人

男の子3人を育てるママライターです。飲食店を経営していた両親の元で、美味しいものを食べて育ちました。現在は息子たちの野球の遠征先でお気に入りの飲食店を探すのが趣味です。満足してもらえる記事の執筆を心がけています。

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