飲食店を引継ぎする方法とは?事業承継のメリットや手続き、注意点を解説
飲食店の引継ぎは、経営権や資産はもちろん、店舗の歴史やノウハウを次世代につなぐ大切なプロセスです。しかし、経営者の高齢化や後継者不足などが課題となっており、スムーズに進まないケースも増えています。飲食店の引継ぎを成功させるためには、計画的な準備が必要です。本記事では、飲食店の引継ぎ方法や注意点、基本的な手続き方法などを解説します。
飲食店の引継ぎが難航する背景とは
長年愛されてきた飲食店を次の世代に引継ぎたいと考える経営者は多くいます。しかし、事業承継は容易ではありません。なぜ飲食店の引継ぎが課題となるのか理由を見ていきましょう。
経営者の高齢化
日本の飲食店業界では、経営者の高齢化が深刻な問題となっています。体力や健康の問題から、現状の店舗運営が難しくなり、引継ぎを検討するケースが増えています。しかし、多くの高齢経営者は引退の準備が不十分で、財務状況や店舗の情報を整理できていないケースも少なくありません。このような状況では、引継ぎ希望者が店舗の実態を把握しにくく、取引が進まない要因となります。
深刻な後継者不足
後継者不足は、特に個人経営の飲食店において深刻な課題です。引継げる家族がいない、従業員に経営能力がないなどの理由で後継ぎがいないケースが増加しています。さらに、親族以外に事業を譲る文化が根付いていないため、外部からの引継ぎがスムーズに進まないことも。後継者を見つけるためには、地域の商工会や専門のマッチングサービスを活用し、店舗の魅力をしっかりアピールする必要があります。
引継ぎ後のビジョン共有の難しさ
経営者と引継ぎ希望者の間で、店舗運営のビジョンが一致しない場合も難航する要因です。例えば、現オーナーが店舗の伝統を守ることを重視する一方、新オーナーがリブランドや業態変更を目指している場合、双方の意見が食い違い、取引が停滞します。引継ぎを成功させるためには、双方が妥協点を見つけ、店舗の将来像について十分に話し合うことが必要です。
飲食店を引継ぎする方法
飲食店の引継ぎを考える際、主に3つの引継ぎ方法があり、「誰に承継するか」は重要な選択です。親族に引継ぐ「親族内承継」、信頼できる後継者を見つける「親族外承継」、そして新たな可能性を広げる「M&A(第三者への承継)」の3つの方法を解説します。
親族内承継
親族内継承とは、自身の子どもや家族、兄弟などに飲食店をそのまま譲る方法です。日本では従来から使われている最も一般的な手段といえます。この親族内承継は、事業を引継ぐための準備期間を長く確保できたり、従業員や取引先からも理解を得やすかったりといったメリットがあります。
ただし店舗を譲渡した時点で経営者が移行するため、譲渡完了までに手続きを終わらせておかなければなりません。この手続きを怠ると無許可営業となり、2年以下の懲役刑や200万円以下の罰金が発生するため注意が必要です。また親から子どもに無償で譲渡する場合、相続税や贈与税がかかる可能性があり、後継者への負担となるケースも考えられます。
親族外承継
親族外承継とは、自社の従業員に事業を引継ぐ方法です。後継者が店舗のことを理解しているケースが多く、他の従業員からの理解を得やすいのが特徴です。また経営者が能力の高い後継者を自ら選べるため、引継ぎが比較的スムーズに済みます。特に個人経営飲食店の場合、お店の味や常連との関係などがあるため、親族外承継が選ばれることも珍しくありません。
一方、後継者が事業承継に伴う資金を用意する必要があるため、後継者候補の人材から承諾を得にくいことや、他の従業員の反発が懸念点として挙げられます。
M&A(第三者への承継)
企業の合併と買収をするM&Aを活用して、第三者へ事業を引継ぐことも可能です。後継ぎがいなくても事業継承ができる、譲渡益を得られることなどから、近年ではM&Aを活用しての事業継承が人気となっています。 従業員の雇用が継続できたり、技術の継承もできたりするため、今後の事業の発展にもつながるでしょう。
飲食店の引継ぎにおけるM&A
上記で解説したように後継者がいない場合、M&Aを活用するという手段もあります。M&Aについてより詳しくみていきましょう。
M&Aを活用するメリット
M&Aを活用することで、円滑な事業承継が可能になります。特に、後継者がいない場合や引退を考えている経営者にとって、第三者への事業譲渡は店舗の存続を図る有効な手段です。買収側にとっても、既存の店舗ブランドや顧客基盤を活用することで、新規参入のリスクを軽減できます。また、オーナー側が事業売却を通じて得た資金を引退後の生活資金や新たな投資に活用できる点もメリットです。
M&Aを活用するデメリット
M&Aを活用することによって新しい経営者の方針転換により、店舗の独自性や伝統が失われるリスクがあり、顧客離れを招く可能性があります。また、経営体制の変更によって従業員が不安を抱き、離職率が増加する恐れもあるでしょう。
市場価値と売却希望価格のギャップにより、希望条件での取引が難しい場合もあります。加えて、交渉過程での情報漏洩リスクも懸念材料です。これらのデメリットを回避するためには、事前準備や信頼できる専門家の協力が不可欠です。
M&Aを活用する際の重要なステップ
M&Aを成功させるには、まず店舗の財務状況や資産価値を正確に把握することが重要です。その後、専門の仲介会社を利用して、買収希望者とのマッチングを行います。特に、飲食店の強みや地域性をアピールすることで、魅力的な取引を実現しやすくなるでしょう。また、契約内容を明確化し、譲渡後の運営計画や条件について十分な合意を得ることが、スムーズな事業承継につながります。
飲食店のM&A成功事例
地域に根付いた個人経営の飲食店がM&Aを通じて成功を収めた事例も増えています。例えば、地域の伝統料理を提供する店舗が、買収先の大手企業によってブランド力を強化し、フランチャイズ展開を実現しました。また、小規模なカフェが新しいオーナーの運営ノウハウにより業績を改善した例もあります。
飲食店を引継ぎする際の注意点
飲食店を引継ぎする場合、新しいオーナーがスムーズに運営させるためにも費用の確認や事前準備、告知のタイミングなどを慎重に進めなければいけません。飲食店をき継ぐ際に特に注意すべき点を3つ紹介します。
引継ぎにかかる費用を確認する
飲食店を引継ぐ際には、費用面の詳細な確認が必要です。借金や負債は残っていないか、きちんと支払い終えているかの確認は絶対に行うようにしましょう。また物件の譲渡費用や設備の修繕・更新費用、在庫品の引継ぎ費用など、想定外のコストが発生する可能性があります。特に、老朽化した設備や内装の修繕費用は見落としがちです。
引継ぎ後に発生する営業許可申請や契約変更手続きの費用も考慮する必要があります。さらに、仲介業者を利用する場合は手数料も含めて総額を把握しておきましょう。資金計画を立てる際には、余裕を持った予算を組むことで、予期せぬ支出にも対応できるようにすることが重要です。
早めの準備で対策をする
店舗の引継ぎは、スムーズに進めるために早期の準備が欠かせません。これまでに培ってきたノウハウや技術を継承したり、引継ぎ後にやっていけるだけの力を育てたりする必要があります。
まず、引継ぎまでのスケジュールを明確にし、やるべきタスクをリスト化することから始めましょう。例えば、営業許可の更新手続きや設備の点検、引継ぎ後のオペレーション計画の策定などがあります。また、顧客データや仕入れ先との契約内容の確認、従業員とのヒアリングも早めに進めておくことも大切です。引継ぎが近づいてから準備を始めると、抜け漏れが発生しやすくなるため、計画的に進めることが成功の鍵となります。
取引先や従業員への告知のタイミングに気を付ける
取引先や従業員への告知タイミングを誤ると、不信感や混乱を招くリスクがあります。特に従業員に対しては引継ぎが決まるまでは知らせず、確定した時点で方針や待遇がどのように変わるのかを丁寧に説明する必要があります。
取引先に対しても同様で、引継ぎが確定したら早めに新しい経営者の情報や今後の取引方針を伝えることで、信頼関係を維持できるでしょう。告知のタイミングが早すぎると不要な憶測が生まれる一方、遅すぎると十分な調整時間が確保できなくなるため、適切なバランスが求められます。
飲食店の引継ぎに関する食品衛生法の改正
これまでの食品衛生法では、事業譲渡によって飲食店の経営者が変わる際の名義変更が認められていなかったため、譲渡人(飲食店の経営者)は保健所へ廃業届を提出し、譲受人(新しいオーナー)が新たに営業許可を取り直す必要がありました。
しかし令和5年中の法改正により、令和5年12月13日以降に事業譲渡が行われた際は、譲渡人は廃業届を提出する必要がなくなり、譲受人が事業譲渡後に保健所へ地位承継届を届出るだけで、営業を止めることなく速やかに名義変更ができるようになりました。
簡単かつスピーディーに飲食店営業許可の引継ぎが可能になったことからM&Aを行いやすい環境が整い、後継者問題の解決や事業整理・強化といった目的が達しやすくなっています。 なお事業譲渡には、一部門単位で譲渡する「一部譲渡」と事業のすべてを譲渡する「全部譲渡」があります。今回の法改正の内容が適用されるのは全部譲渡のみです。
飲食店を引継ぎする際の手続き
飲食店を譲渡する際には多くの手続きを求められます。スムーズに進めるためにも、譲渡人と受取人で情報交換や手続きをしっかり行いましょう。
保健所への事前相談と必要書類の提出
事業承継を行う流れは以下のとおりです。
【保健所へ事前相談】
事業譲渡による飲食業許可の引継ぎを行う際には、届出を出す前に保健所へ相談します。譲渡人を通じて保健所から衛生管理の方針等が確認されるため、譲渡人が譲受人に対して適切な説明を行う必要があります。
【譲渡に関する証明書の提出】
地位承継届を届出る場合、営業の譲渡が行われたことを証明する書類の添付が義務付けられています。譲渡契約書や覚書など、譲渡事実が確認できる書類を準備しましょう。
【承継手続き後に行われる保健所の調査】
地位承継の届出が行われると、保健所による施設状況の確認が行われます。
他にも名義変更が必要です。
- 賃貸契約
- 水道光熱費
- 仕入れ先 など
経営している店舗が賃貸契約の場合、譲受人が新たに契約を結ぶ必要があります。他にも仕入れ先や電気、ガスや水道の契約の名義も変更が必要です。
飲食店を経営するための資格の確認
店舗を引継ぐ側は、飲食店の経営に必要な食品衛生責任者や防火管理者の資格を持つ人を必ず配置しなければなりません。 食品衛生責任者とは、食品衛生上の管理や運営にあたる責任者です。飲食店を営業する施設に最低1人の所属しなければならず、開業する際に届出を提出しなければなりません。
防火管理者は、建物や施設において火災予防のための管理業務を行う責任者で、従業員が30人以上となる店舗を営業する場合に配置を求められます。なお、防火管理者は店舗の延床面積が300平米以上か未満かによって甲種か乙種か変わります。
延床面積が300平米以上の場合:甲種防火管理者
延床面積が300平米未満の場合:乙種防火管理者
発生する税金の確認
飲食店を引継ぎする場合、以下の税金が発生する可能性があります。
贈与税 | 経営者が生前に親族や第三者に無償で事業承継した場合、後継者に発生する。 |
相続税 | 経営者が亡くなり、事業承継する場合、後継者に発生する。 |
消費税 | 消費税課税事業者である場合にのみ発生する。経営者が生前または相続で事業継承するかで負担する対象者が変わる。 |
所得税 | M&Aなどで事業承継した場合、前経営者に対して課せられる。 |
贈与税は、先代の経営者の屋号付き口座や営業車両、在庫商品など経済的な価値があるものすべてが課税対象です。なお、未払いの借入金や買掛金などの債務を引継いだ資産と110万円の基礎控除を差し引いた額が課税対象となります。
飲食店の引継ぎで知っておきたい知識
最後に、飲食店の引継ぎに関する知識を紹介します。事前に知っておくことで、対策や準備ができるのでチェックしておきましょう。
政府主導の支援制度
事業承継では、活用できる政府主導の支援制度やサポートが多数あります。 例えば、事業承継に伴う相続税や贈与性の納税の猶予を受けられる事業承継税制は、要件を満たしていれば後継者の納税負担を一時的に軽くできるため、計画がしやすくなります。
その他にも以下のような支援制度があります。
- 事業承継
- 引継ぎ補助金
- 遺留分に関する民法の特例
- 所在不明株主に関する会社法の特例
- 事業承継ファンド
- 登録免許税
- 不動産取得税の特例
- 経営資源集約化税制
- 経営承継円滑化法に基づく金融支援 など
飲食店の引継ぎでは、国や自治体、商工会等が提供する補助金や金利、低利融資を活用することで、経済的負担を軽減できます。引継ぎの具体的な条件や計画に応じて、専門家に相談しながら適切な制度を選ぶことが重要です。
風俗営業許可の事業承継
飲食店営業許可においては手続きが簡略化されたものの、風俗営業許可についてはこれまで通りの手続きが必要です。 キャバクラやバーといった風俗営業店舗の場合、管轄の公安委員会によりますが、原則的に営業者が変わると営業ができず、一度返納手続きをした後に新しく開業手続きをしなければなりません。
廃業にかかる費用
飲食店の引継ぎができず廃業する場合、「廃業届を出して終わり」ではなく、多くの費用が必要になります。
- 内装の解体費用
- 厨房機器やエアコンのリース代の支払い
- 金融機関の借入金の返済
- 解約までの期間の家賃 など
賃貸だった場合は、原状回復にかかる費用も必要です。どの程度の費用になるかは店舗の度合いによって異なるため、管理会社との相談で決まります。ただし、長年飲食店を経営し、店内に油や煙による汚れがある場合は、高額な費用が必要になる可能性があるでしょう。他にも後払いとしている人件費や食材費、法人経営の場合は解散費用や決算費用が必要です。
飲食店の引継ぎをスムーズに行うなら「買取の神様」へ
飲食店の引継ぎを成功させるためにも、事前準備や法的手続き、資金計画をしっかり行うことが大切です。特に、税金や補助金の活用、許可や届出などは漏れなく行わなければなりません。店舗の歴史や魅力を未来につなぐ引継ぎを計画的に進め、次世代に愛される店舗作りを目指しましょう。
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