飲食店居抜き物件の造作譲渡で起こるトラブルとは?注意点や対策を紹介
飲食店の居抜き物件における造作譲渡とは、閉店の際に内装や設備を残して次のテナントへ引き継ぐことを指します。スケルトン工事を省略できる造作譲渡は、費用や手間の面でメリットが多いものの、トラブルを回避するためには事前の準備が重要となります。今回は、造作譲渡の仕組みやメリット・デメリット、よくあるトラブル事例と対策を解説します。
造作譲渡とは?
造作譲渡とは、前テナントが使用していた内装や設備を、解体せず次の借主に譲り渡すことです。造作譲渡を行うことでスケルトン工事を省略し、退去時の手間や費用を軽減できます。まずは、造作譲渡の仕組みや対象物、必要書類について詳しく紹介します。
内装や設備を次の所有者へ譲り渡すこと
造作譲渡とは、店舗で使用していた内装や設備(造作物)を、そのまま次のオーナーに譲り渡すことを指します。退去時の「原状回復義務」によりスケルトン工事をすることなく、壁材や床材、厨房機器、照明設備などを次のテナントが活用できます。
造作譲渡の最大の特徴は、スムーズな引き継ぎが可能なこと。通常、店舗を閉める際には内装や設備をすべて取り除き、物件をスケルトン状態に戻す必要がありますが、この作業には高額な費用が発生します。しかし、造作譲渡を行うことで工事のコストをカットし、退去までの時間を短縮できます。
新しいテナントのオーナーにとっても、内装や設備を引き継いで初期投資を大幅に抑えることができるため、メリットの多い引き渡し方法です。
造作譲渡の対象物
造作譲渡の対象となるのは、店舗の営業に必要な内装や設備一式です。例として飲食店の場合は、以下のようなものが含まれます。
- 内装材:壁や床、天井など
- 厨房設備:ガスコンロ、冷蔵庫、シンク、給排気設備など
- 家具や什器:テーブル、椅子、棚、カウンターなど
- 電気設備:照明器具、空調、換気扇など
ただし、造作譲渡の対象物は、物件の賃貸契約や状況によって異なる場合があります。リース品や壊れている設備は譲渡の対象外になることが多いため、リスト化して事前に確認することが大切です。
例として、厨房の冷蔵庫がリース品であった場合、譲渡対象に含めると新テナントがリース料を支払う必要が発生します。また、設備が古くなっている場合は、修理や交換のコストがかかる可能性もあります。
造作譲渡の必要書類
造作譲渡をするには、「造作譲渡契約書」が必要です。これは現オーナーと新オーナーの間で交わされる契約書で、形式上の決まりはありませんが、双方が納得する形にまとめなければなりません。両者のやり取りにより作成して構いませんが、不安な場合は専門家のサポートを受けることをおすすめします。契約書には、以下のポイントを含める必要があります。
- 貸主の承諾
- 譲渡する造作物のリスト
- 譲渡金額や支払い条件
- 支払期日と引き渡し日
- 原状回復義務の所在
- 契約解除条件
造作物のリストには、リース品の有無や劣化の程度も記載します。造作物のリストは、漏れや誤りがあるとトラブルの原因となるので丁寧に記入しましょう。
造作譲渡のメリット・デメリット
造作譲渡にはスケルトン工事の費用を軽減できる、閉店の直前まで営業でき収益が入るなどのメリットがあります。一方で、譲り渡す相手のオーナーと認識のずれがあるとトラブルにつながる、事前に貸主の許可が必要などのデメリットも存在します。造作譲渡をする前にメリット・デメリットの両方を確認しておきましょう。
【メリット①】原状回復工事の費用を軽減できる
造作譲渡の最大のメリットは、スケルトン工事や廃棄費用を削減できること。飲食店の原状回復費用は物件によって異なるものの、一坪あたり3~5万円が相場で、物件の広さによっては数十万円~百万円以上かかるケースも少なくありません。しかし造作譲渡を選択することで、この負担を回避できます。また、物件によっては費用を抑えるだけでなく、逆に売却益が発生する場合もあります。
【メリット②】閉店直前まで営業できる
造作譲渡を選択するとスケルトン工事を行わないため、閉店直前まで営業ができるのもメリットです。原状回復する場合は早めに店を閉めて工事を依頼しますが、造作譲渡では退去の直前まで営業を続けて収益が得られます。スケルトン工事の期間を短縮できるため、早期に店舗を売却して次のステップに進みたいと考えている方にもメリットの多い方法です。
【メリット③】内装や設備を次のお店に活かせる
内装や設備を壊すことなく、次のテナントに使ってもらえるのもメリットと言えます。現オーナーがお店の内装や設備に思い入れがある場合、次のお店で活用されるのは嬉しく感じられるでしょう。
【デメリット①】認識を誤るとトラブルを招く
造作譲渡で注意したいのは、新オーナーと認識の違いがあるとトラブルを招きやすい点です。特に譲渡対象物の状態や所有権が明確でない場合、トラブルになりやすい傾向があります。リース契約のままの設備や、劣化して使えないものが含まれていないか、造作譲渡前に確認が必要です。
【デメリット②】貸主の許可が必要
造作譲渡には、貸主の事前承認が不可欠です。借主には退去時に原状回復義務が発生するため、貸主から承諾を得てこの義務を次の借主へ引き継ぐ必要があります。この手続きが遅れると、新テナントとの契約に影響を及ぼす可能性があるため、早めの相談が重要です。また、貸主によっては許可が下りないケースもあります。
造作譲渡の際によくあるトラブル事例
造作譲渡で起こるトラブルは、原状回復義務が適用される範囲が不明慮な場合や、リース品など所有者不明の設備がある場合に多く見られます。また、水回りや空調設備、不用品に関するトラブルも多い傾向です。よくあるトラブル事例から、注意すべき点を確認しておきましょう。
原状回復義務がどこまで適用されるか分からない
原状回復義務が適用される範囲が曖昧なままだと、貸主と新オーナーとの間でトラブルになるケースが見られます。「原状回復義務」とは、退去の際に借りたときと同じ状態に戻すことを指し、居抜き物件の場合はスケルトン状態にして返すのが一般的です。ただし、具体的な原状回復の適用範囲は賃貸借契約の内容によって異なります。
造作譲渡をすると、現オーナーは原状回復義務を果たさないまま、次のオーナーへ引き継ぐ形となります。そのため、次のオーナーと契約する際には、物件における「原状」がどこまで適用されるのか、重要事項説明書と施行時の図面を用いた引き継ぎが必要です。
所有者不明の設備がある
所有者が明確でない設備がある場合も、トラブルの原因となります。家具や厨房機器などの設備を現オーナーが設置した場合は、造作譲渡の対象となりますが、貸主が所有権を持つ場合は無断で譲渡できません。
例として、エアコンは入居の際に設置してあるケースが多く、その場合は貸主の所有物となります。この場合、新オーナーがエアコンも引き継げると思って入居すると、貸主が撤去してトラブルになる可能性が考えられます。
トラブルを避けるためには、物件の設備一覧と状態を記入した「付帯設備表」を用意し、新オーナーに渡すのがおすすめです。設備の有無に加えて故障や不具合も記入しておけば、引き渡した後に「譲渡された設備が壊れた」などの問い合わせがあっても責任を免れることができます。貸主が所有している設備も明記しておくことで、思い違いによるトラブルを減らせるでしょう。
水回りや空調設備にトラブルがある
造作譲渡で多いのは、水回りや空調設備に関連したトラブルです。シンクや冷蔵庫、食器洗浄機などの排水機能が劣化すると、水漏れやニオイのトラブルを招きます。水回りの排水ホースや排水口を一つ一つ確認することで、トラブルを未然に防げます。
また、エアコンや厨房内の給排気など、空調設備の確認も重要です。特にレンジフードの換気が十分にできていないと、店内に熱がこもったり煙が充満したりしてしまいます。不具合に気付かず譲渡するとトラブルの原因となるので、譲渡前にレンジフードの換気やエアコンの稼働状況をチェックしておきましょう。
不用品の処理を忘れて退去する
譲渡リストに記載のない、不用品の処理をしないまま退去することもトラブルの原因です。不用品は処分のために手間や費用がかかるため、新オーナーから処分費用を請求される可能性もあります。不用品と譲渡品は明確に分けて管理し、不用品は退去前に必ず処分するようにしましょう。もし譲渡後に不用品が見つかった場合、誰が処分するのか事前に決めておくのも有効です。
造作譲渡のトラブルを防ぐ4つの対策
造作譲渡でよくあるトラブルを防ぐためには、事前の準備が欠かせません。設備の動作や所有者を確認しておく他に、期間に余裕を持って貸主と交渉するのも押さえておきたいポイントです。また、造作譲渡の手続きや交渉が面倒だと感じる場合は、プロに相談することも検討しておきましょう。
①設備の動作チェックをする
造作譲渡のトラブルを防ぐには、設備が動作するか事前に確認しておきましょう。設備が故障していることに気付かず譲渡すると、後からトラブルになる可能性もあります。
特に厨房機器や空調設備は高額であり、修理や買い替えが必要な場合には、新オーナーにとって大きな負担となります。故障した設備を譲渡する場合、処分・修理費用を誰が負担するのかは現オーナーの判断に委ねられます。現オーナーが処分・修理をすると費用がかかりますが、物件そのものの価値は高まるため、有利な条件で売却しやすくなるのがメリットです。
②設備の所有者を確認する
造作譲渡前にテナント内の設備について、一つ一つの所有者を明確にしておきましょう。譲渡対象の中にリース品が含まれている場合、無断で譲渡すると新オーナーが追加の支払いを求められるなどのトラブルになることがあります。
リース品については貸主やリース会社、レンタル会社に相談するか、新オーナーにリース契約の継続を交渉する必要があります。手間はかかりますが、事前に確認することで後々のトラブルを減らせるでしょう。
③期間に余裕を持って貸主へ相談する
造作譲渡には貸主の承諾が必要となるため、退去時期から逆算して余裕を持って相談しましょう。そもそも貸主の承諾が得られない場合、造作譲渡ができないことも考えられます。
造作譲渡の交渉はスムーズに進むこともあれば、承諾までに時間がかかるケースもあります。期間に余裕がないと希望の時期に売却できず、余分に家賃を払う可能性があるため、閉店を決めたタイミングで相談を始めると良いでしょう。
④店舗売却の専門業者に依頼する
店舗売却を専門とする業者に造作譲渡を依頼するのも、トラブルを防ぐ対策のひとつです。造作譲渡は貸主や新オーナーとの交渉、書類作成などさまざまな作業が発生します。飲食店経営をしながらこれらの作業をこなすのは、負担に感じる方も多いかもしれません。
店舗売却のプロに依頼することで、面倒な手続きや確認作業を大幅に簡略化できます。造作譲渡の相場や必要な契約内容について熟知しているため、円滑な譲渡をサポートしてくれるでしょう。トラブルが発生しやすいポイントについてもアドバイスを受けることもでき、譲渡時のリスクを最小限に抑えられます。特に初めて店舗を売却する場合には、専門家によるサポートも検討してみてください。
トラブル事例や対策を参考に、スムーズな造作譲渡を目指そう
造作譲渡は、スケルトン工事の費用を削減できるなどメリットが多いものの、事前の対策が不十分だとトラブルの原因となります。設備の状態確認や所有権の明確化、貸主との交渉など、一つ一つの手順をしっかりと行いましょう。不安がある場合は専門業者に相談することで、安心して手続きを進められます。対策を講じて、スムーズな譲渡を目指しましょう。
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