飲食店の地震対策マニュアル|万が一に備えてやるべきこと

飲食店は多くの人が集まる場であり、災害時の被害リスクも高い業種の一つです。特に地震は突発的に発生し、営業停止や信頼喪失といった深刻な影響を及ぼします。いざという時に備え、地震対策の基本を押さえておくことが、事業継続のカギとなるでしょう。本記事では、飲食店が取り組むべき地震対策のマニュアルや被災時の対応手順、そして居抜き物件での工夫について詳しく解説します。

目次

なぜ飲食店に地震対策が必要なのか

飲食店は、構造上や設備の性質から地震の被害を受けやすい環境にあります。被害を最小限にとどめるためにも、事前の地震対策は欠かせません。ここでは、飲食店が直面しやすいリスクや被害事例をもとに、地震対策の重要性を解説します。

地震発生時、飲食店が直面する主なリスク

飲食店は火気や水回りを扱う厨房設備、ガラス製の什器や照明、大型の冷蔵庫や棚など、地震時に被害を受けやすい要素が数多く存在します。建物や設備の破損だけでなく、火災や漏電などの二次被害が発生するおそれもあります。さらに、混雑時にはお客様や従業員の安全確保や避難対応が難しくなる点も見逃せません。

特にランチやディナーのピーク時には店内の人口密度が高まり、転倒・落下物による怪我のリスクが増加します。こうした構造的な要因から、飲食店は「被害が発生しやすい環境」にあることを理解し、事前の備えが必要不可欠です。

地震によって飲食店に生じる具体的な影響

地震によって店舗が被災すると、営業の一時停止を余儀なくされ、売上の大幅な損失につながります。さらに、冷蔵・冷凍設備の停止や破損によって、食材や備品が使えなくなるケースもあるでしょう。加えて、安全管理が不十分と見なされると、顧客やスタッフからの信頼を失い、営業再開後の集客にも悪影響を及ぼすおそれがあります。

対策を怠るとどうなるか|過去事例に学ぶ教訓

東日本大震災や熊本地震では、多くの飲食店が設備損壊や在庫の廃棄、長期の営業停止に見舞われました。特に対策を講じていなかった店舗は、被害が大きく復旧までに長期間を要し、再開を断念した例もあります。

一方で、耐震補強やマニュアルの整備、非常用備品の備蓄など事前準備を行っていた店舗は、被害を最小限に抑え、早期に営業を再開できたという報告もあります。過去の教訓からも、地震対策の有無が店舗の明暗を分ける要因となることが明らかです。

地震対策マニュアルの作り方

地震発生時に迅速かつ的確な行動を取るためには、あらかじめマニュアルを整備しておくことが重要です。全スタッフが共通の対応手順を把握しておくことで、混乱を防ぎ、安全と被害の最小化につながります。

飲食店向けマニュアルに盛り込むべき内容

飲食店の地震対策マニュアルには、地震発生時の初動対応や避難手順に加え、火気設備の停止方法、店内の安全確認ポイントなどを盛り込む必要があります。スタッフやお客様の安全確保を最優先とし、役割分担や連絡体制、外部との連携方法も明記しましょう。さらに、営業再開までの対応フローや備蓄品の管理ルールなども記載しておくと、非常時でも落ち着いて行動しやすくなります。

初めてでも作れる!マニュアル作成の手順とコツ

地震対策マニュアルを初めて作る場合でも、ポイントを押さえれば難しくありません。以下の手順とコツを参考に、店舗に合った実践的なマニュアルを作成しましょう。

STEP
店舗のリスクを洗い出す

例:ガラス製品の多さ、厨房の火気設備、避難経路の狭さなど

STEP
対応フローを整理する

地震発生→火元確認→お客様の避難誘導→連絡→安全確認→営業判断 など

STEP
役割分担を明確にする

責任者、誘導係、通報担当などを決める

STEP
文書化する

誰が読んでもわかるよう、簡潔で平易な文章にする

STEP
スタッフと共有・訓練を行う

マニュアルは作って終わりではなく、現場で活用できることが大切

作成のコツ
  • イラストや図解を取り入れると理解しやすい
  • 実際の動線を意識した内容にする
  • 定期的に見直す前提で作る(訓練後の振り返りで更新)

マニュアルテンプレート例と記載すべき項目

地震対策マニュアルは、いざという時に誰が見てもすぐに行動できる内容であることが大切です。以下のような構成で整理しておくと、初動対応から復旧までスムーズに進めやすくなります。

主な記載内容
 基本情報・店舗名/所在地
・避難経路図/避難場所の住所
・緊急連絡先一覧(店長・スタッフ・消防・警察・保険会社など)
地震発生時の初動対応・スタッフの安全確保手順
・火気設備(コンロ・グリル等)の停止手順
・店内アナウンス
・お客様への避難誘導の流れ
避難完了後の対応・被害状況の確認ポイント(天井・棚・ガス・電気)
・外部機関への連絡フロー
・営業可否の判断基準
備蓄品の管理・備蓄品一覧(水・食料・懐中電灯・簡易トイレ等)
・定期点検
・補充スケジュール
定期訓練・見直し・訓練実施日時と記録
・マニュアル更新履歴

テンプレート共有・クラウド保存などの工夫

作成したマニュアルは、スタッフ全員がいつでも確認できるようにすることが重要です。紙だけでなく、GoogleドライブやDropboxなどのクラウドサービスに保存すれば、スマホやタブレットからもアクセス可能になります。また、テンプレート形式で保存しておくと更新や再利用がしやすく、新しいスタッフへの引き継ぎもスムーズです。ファイル名やフォルダの整理も意識し、誰でも迷わず見つけられる工夫をしておきましょう。

地震発生時の対応マニュアル

地震対策マニュアルを整備したら、次は実際の地震発生時にどのように行動すべきかを具体的に確認しておきましょう。ここでは、地震発生直後の初動対応について解説します。

スタッフの安全確保と避難誘導

地震発生時には、まずスタッフ自身の安全を最優先に確保することが重要です。落下物の多い厨房や狭い通路では、頭部を守りながら安全な場所へ移動し、揺れが収まるまでその場を離れないようにしましょう。スタッフが冷静でいなければ、お客様の誘導もうまくいきません。

揺れが収まった後は、事前に決めておいた避難誘導の役割分担に従い、店内にいるお客様の避難をサポートします。複数の避難ルートや非常口の位置を把握しておき、明確な声かけと落ち着いた対応を心がけることで、パニックを防ぎながら安全な避難につなげることができます。

お客様への声かけと誘導方法

地震発生時には、店内が混乱しやすいため、スタッフが冷静に状況を把握し、迅速かつ丁寧に声かけを行うことが求められます。まずは「慌てず、頭を守って低い姿勢をとってください」といった簡潔で安心感のある言葉をかけ、揺れが収まるまでの安全確保を促しましょう。

揺れが収まった後は、「こちらが避難経路です」「足元に注意してください」など、落ち着いたトーンで的確に誘導します。店舗のレイアウトや出入口の位置に応じて、避難ルートを明示しながら、転倒や怪我を防ぐようサポートすることが重要です。

厨房の安全確保と二次災害への備え

飲食店では、厨房設備の性質上、地震による火災やガス漏れなどの二次災害が起こりやすい環境にあります。特に営業中は、ガスコンロやフライヤーなど火気設備が稼働しているケースが多く、初動が遅れると大きな被害につながるおそれもあるでしょう。

揺れが収まった後には、ガスの元栓やブレーカーを速やかに確認・停止する対応が求められます。あらかじめ遮断弁の位置や操作方法をスタッフ全員が把握しておくことが重要です。

また、店内には天井材や棚上の備品、食器類など、落下の危険がある物が多く存在します。地震時の被害を最小限に抑えるには、どの場所にリスクがあるかを事前に共有し、定期的な点検や訓練を行うことが効果的です。

外部との連絡手段・情報収集

地震発生時には、状況把握と関係機関との連携が非常に重要です。まず確認すべきは、スタッフや家族との安否確認です。携帯電話がつながりにくくなる可能性もあるため、災害用伝言ダイヤルやSNS、チャットアプリなど複数の連絡手段を確保しておくと良いでしょう。

また、正しい状況判断を行うためには、自治体や気象庁など信頼できる機関の情報を確認することが大切です。テレビやラジオに加えて、防災アプリを活用すると最新の情報を得やすくなります。

さらに、万が一の際に備え、取引先や保険会社との連絡手段を事前に把握・共有しておくと、復旧対応が滞るリスクを減らせます。不安定な通信状況でも対応できるよう、複数の手段を準備しておきましょう。

地震に備えておくべき事前対策

地震による被害を最小限に抑えるためには、日頃からの備えが不可欠です。飲食店が実践しておくべき地震対策の基本的な準備について解説します。

店内レイアウト・設備の見直し

店内レイアウト・設備の見直しは、地震対策の基盤となる重要なステップです。飲食店は多くの人が集まる場であるので、万が一の揺れに備え、安全かつスムーズに避難できる動線の確保が求められます。

レイアウト面では、避難経路に障害物を置かない、テーブルやイスの間隔を広めに取るなど、非常時の移動を妨げない配置が理想です。また、厨房では大型冷蔵庫や加熱機器の固定が不可欠です。設備面では、照明や吊り下げ看板の落下対策や、電源の確保場所も見直しておきましょう。

食器や什器の転倒・落下防止策

食器や什器の転倒・落下防止策は、店内の安全を守るために欠かせない地震対策の一つです。揺れによってガラス製品や調理器具が落下・破損すると、お客様やスタッフの怪我につながるリスクがあります。

例えば、棚に滑り止めシートや耐震マットを敷く、扉付き収納にする、突っ張り棒やストッパーで棚を固定するといった工夫が効果的です。また、高い位置に重いものを置かない、什器の配置を見直すことも被害軽減につながります。定期的な見直しと点検を習慣化しましょう。

非常用備蓄品

非常用備蓄品は、地震などの災害時に店舗内で安全を確保するための重要な備えです。ライフラインが止まった場合でも一定時間対応できるよう、最低でも3日分の備蓄があると安心です。

備えるべき主なアイテム
  • 飲料水(1人あたり1日3リットルが目安)
  • 保存食(レトルトや缶詰、アルファ米など火や水なしで食べられるもの)
  • ポータブル電源や発電機(情報収集や照明、スマホ充電用)
  • 懐中電灯やランタン(電池式・充電式どちらも用意)
  • 簡易トイレ・衛生用品(断水に備えて)

非常用グッズは倉庫やバックヤードなどスタッフがすぐ取り出せる場所に保管し、定期的な点検と入れ替えも忘れずに行いましょう。

スタッフへの教育・避難経路の確認

スタッフの教育や避難経路の確認は、災害時に混乱を避け、安全に対応するために欠かせない取り組みです。どれだけ備品を整えても、現場で動くスタッフが対処できなければ意味がありません。

まず、店舗内の避難経路や非常口を全員が把握していることが前提です。定期的にスタッフ全員で避難経路を歩いて確認し、障害物や案内表示の不備がないか点検しましょう。

教育のポイント
  • 地震発生時の行動手順(身の安全確保→火元確認→避難誘導など)を周知
  • お客様への声かけ・誘導方法のシミュレーション
  • 初期消火器具や非常用品の場所と使い方を実践で学ぶ
  • 定期的な避難訓練の実施と、振り返りミーティングの実施

スタッフの体制やシフトに合わせた役割の明確化は、緊急時の混乱防止に有効です。教育と確認を日常的に行うことで、非常時にも安心して行動できるようになります。

営業停止リスクへの備え(保険・BCP)

地震による営業停止に備えるためには、保険の活用やBCP(事業継続計画)の整備が重要です。まずは、地震保険や休業補償保険の加入を検討しましょう。建物や設備の被害、営業停止による損失に備えておくことで、スムーズな再建につながります。

あわせて、災害時にどのように事業を守り、再開を目指すかを整理したBCPも用意しておくと安心です。例えば、以下のような内容を盛り込むと実効性が高まります。

  • 優先復旧すべき業務・設備の整理
  • 代替手段や協力先の確保
  • 連絡体制・指揮系統の明確化
  • 備品や資金の確保状況の把握

飲食店の居抜き物件でもできる地震対策とは

居抜き物件での開業は、コストや準備期間を抑えられる反面、前の店舗の構造や設備を引き継ぐため、安全面の確認が欠かせません。特に地震対策は、既存の状態を前提にしたうえで、必要な補強や点検を行うことが重要です。この章では、居抜き物件でも実践できる地震対策のポイントを解説します。

内装・設備が残る物件でのチェックポイント

居抜き物件では、前店舗の内装や什器、厨房設備などがそのまま残っているケースが多くあります。契約前の段階で、それらの状態や配置が災害リスクを高めていないかを確認することが重要です。さらに、災害時のスムーズな避難を想定し、動線や経路の安全性を確保しておくことが求められます。

チェック項目内容確認ポイント
吊り下げ照明・装飾品落下の危険性ワイヤーや金具でしっかり固定されているか
厨房機器の設置位置転倒・移動のリスク壁・床へのアンカー固定の有無
棚・什器の配置避難経路を妨げていないか通路が確保されているか、荷重バランスが適切か
避難経路・出入口緊急時に使いやすいか扉の開閉がスムーズか、荷物で塞がれていないか
天井・壁の状態地震による落下や崩れの可能性ひび割れ・劣化箇所がないか

立地や内装の魅力だけでなく、「災害時に安全に使えるか」という視点で、現地の確認を行うことが重要です。

契約時に確認すべき耐震性や災害リスク

飲食店の居抜き物件を契約する際は、物件そのものの「耐震性能」や「立地の安全性」についても必ず確認しましょう。

チェック項目内容確認ポイント
建物の築年数・構造新耐震基準(1981年以降)かRC造・鉄骨造が望ましい
耐震補強の有無補強済みかどうか工事履歴や施工報告書の有無
ハザードマップ地盤や水害のリスク確認自治体の公式サイトなどで確認可能
過去の災害履歴地震・浸水の被害歴がないか不動産会社や近隣住民にヒアリング
非常口・避難経路建物構造として確保されているか出入口の位置や数を事前に把握

「耐震性が不明」「災害履歴が不明確」な物件は、いくら条件が良くても慎重に検討しましょう。安全性の確認は経営リスクの回避につながります。

引き継いだ設備の安全対策

契約後、実際に引き継いだ設備を使う前には「安全に稼働できる状態か」を必ずチェックする必要があります。見た目に異常がなくても、劣化や緩みが原因で地震時に被害を拡大させることもあるかもしれません。特に厨房まわりや電気・ガス設備は、専門業者に一度見てもらうのが安心です。

設備項目点検内容安全対策のポイント
厨房機器(冷蔵庫・コンロなど)ガタつき・設置の安定性アンカー固定・滑り止めマットの使用
ガス配管・接続部劣化・ひび割れガス会社による点検・補修の依頼
電気配線・ブレーカー露出・破損・老朽化電気工事業者による安全確認
吊り下げ設備(照明・ダクト)緩み・落下の可能性ワイヤー等による二重固定
換気扇・排気フードネジの緩み・油汚れメンテナンスと耐震対策の実施

地震が起きた際に危険となるのは、こうした設備の「想定外の挙動」です。事前に安全性を確保しておくことで、被害の拡大を防げます。

飲食店の地震マニュアルで安心と安全の確保へ

飲食店は、火気や什器を多く扱い、お客様が集まる空間であるため、地震発生時のリスクが高い業種です。店舗としての備えを整えておくことで、万が一の時も冷静に対応できます。特に居抜き物件では、設備や構造の状態を正しく把握し、必要な点検・補強を行うことが重要です。

また、物件選びの段階から専門サービスを活用するのも有効といえます。「居抜きの神様」では、東京をはじめ全国の飲食店向け居抜き物件を多数取り扱っており、希望に合った店舗が見つかります。造作譲渡を活用して、コストを抑えつつ安心して開業したい方は、ぜひ相談してみてください。

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この記事を書いた人

男の子3人を育てるママライターです。飲食店を経営していた両親の元で、美味しいものを食べて育ちました。現在は息子たちの野球の遠征先でお気に入りの飲食店を探すのが趣味です。満足してもらえる記事の執筆を心がけています。

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