天ぷら料理店の開業を考えている方にとって、最初の壁は「資金」と「手続き」ではないでしょうか。資格の取得や営業許可、そして内装や設備にかかる費用まで、準備すべきことは多岐にわたります。
本記事では、天ぷら料理店の開業に必要な資格や手続き、費用の内訳、資金調達の方法までをわかりやすく解説します。さらに、初期投資を抑えられる居抜き物件の活用についても紹介しますので、事業計画づくりにお役立てください。
開業に天ぷら料理店を選ぶメリット

天ぷら料理店は、数ある飲食業態のなかでも収益性が高く、比較的安定した経営を目指しやすいといわれています。なぜなら、天ぷらという料理そのものの特性と、現在の市場環境の両方が追い風になっているからです。
天ぷら料理店を選ぶ主なメリットは次の5つです。
- 価格競争に巻き込まれにくい:高度な調理技術が価値となり、適正価格が受け入れられやすい
- 季節感をメニューに反映しやすい:旬の食材を活かし、リピートやSNSでの話題性につながる
- 狭いスペースでも開業できる:20坪以下でも効率的な運営が可能で、固定費も抑えやすい
- インバウンド需要に対応しやすい:外国人旅行者に人気が高く、日本文化を体感できる魅力を演出できる
- テイクアウトに対応しやすい:天丼・弁当などを展開し、店内飲食以外の収益源を確保できる
価格競争に巻き込まれにくい
天ぷらは、見た目以上に高度な技術を求められる料理です。油の温度管理、衣の配合、揚げるタイミングの一つひとつが仕上がりを左右します。そのため、ほかの飲食業態のように「安さ」で勝負する必要がありません。
実際に高級天ぷら店では、1人あたり8,000~15,000円という価格帯でも安定した集客を維持しています。調理技術そのものが価値となり、適正な価格が受け入れられやすいのが天ぷら専門店の強みです。
季節感をメニューに反映しやすい
天ぷらは、食材そのものの持ち味を引き出す調理法です。そのため、旬の食材をメニューに取り入れることで、四季折々の魅力を効果的に伝えることができます。
春には筍やタラの芽、夏にはトウモロコシや鮎、秋には銀杏や柿、冬には牡蠣や白子。こうした食材を使った季節限定の一品は「今しか食べられない特別な味」としてお客様の心をつかみます。
狭いスペースでも開業できる
天ぷら料理店は、大規模な店舗でなくても十分に成り立ちます。カウンター中心のスタイルなら、20坪以下の物件でも、厨房設計を工夫すれば効率的に運営することが可能です。
小規模店舗の利点は、家賃や光熱費といった固定費を抑えられることです。さらに、少人数で切り盛りできるため、人件費も安くなります。カウンター越しにお客様と向き合えるので、料理の説明や会話を通じて、心のこもったサービスを提供できるのも大きな魅力です。
インバウンド需要に対応しやすい
天ぷらは、寿司と並んで外国人旅行者から人気の高い日本料理です。
とくに欧米の観光客にとっては「日本に来たら体験すべき料理」として知られています。コロナ禍以降、インバウンド需要が回復傾向にある今、天ぷら専門店には大きなチャンスが広がっているといえるでしょう。
また、多言語メニューを用意したり、調理の様子を見せるオープンキッチンを採用したりすることで、ただ食事をするだけでなく「日本文化を体感する場」としての魅力を打ち出せます。
テイクアウトに対応しやすい
近年の外食業界では、テイクアウトやデリバリーの需要が急速に高まっています。天ぷらは適切な容器や保温シートを使えば、揚げたてに近い品質を保ちやすい料理です。
天丼や天ぷら弁当といったメニューを展開すれば、店内飲食だけに頼らず、新たな収益源を確保できます。
こちらの記事では、飲食店の開業について解説しています。
成功させるポイントや失敗するケースも取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。

天ぷら料理店の開業に必要な資格・手続き
天ぷら料理店を開業するためには、必要な資格・手続きがあります。これらは法律で定められた必須条件であり、開業前にクリアしておかなければ営業を始めることはできません。
【必要な資格】
- 食品衛生責任者:すべての飲食店に必須、講習で取得可能
- 防火管理者:収容人数30人以上で必要、規模により甲種・乙種を取得
【必要な手続き】
- 飲食店営業許可:保健所への申請が必須、2週間程度かかる
- 防火対象設備使用開始届:建物使用の7日前までに消防署へ提出
- 防火管理者選任届:選任後すぐに提出、消防計画の作成も必要
- その他:深夜酒類提供飲食店営業開始届、開業届や法人設立届など
必要な資格
天ぷら料理店を営業するには、まず基本となる資格を取得しておく必要があります。ここでいう資格とは、調理師免許のような専門資格ではなく、店舗運営において法的に義務付けられているものです。
とくに重要なのが「食品衛生責任者」と「防火管理者」の2つで、いずれも店舗を安全かつ衛生的に運営するために欠かせません。
食品衛生責任者
食品衛生責任者は、すべての飲食店に必ず1人置くことが食品衛生法で義務付けられています。調理師や栄養士、製菓衛生師などの国家資格を持っている場合は、自動的に食品衛生責任者として認められます。
それ以外の方は、都道府県の保健所や食品衛生協会が行う講習会を受講する必要があります。講習はおおむね6時間、受講料は1万円前後です。修了すれば資格を取得でき、この資格は全国どこでも有効に使えます。
防火管理者
飲食店で収容人数が30人以上(従業員を含む)の場合、防火管理者を選任することが法律で義務付けられています。
防火管理者には「甲種」と「乙種」があり、店舗の規模によって必要な種類が異なります。延べ面積300㎡以上なら甲種、それ未満であれば乙種の資格が必要です。
資格の取得方法は講習の受講です。甲種は2日間(受講料およそ8,000円)、乙種は1日(受講料およそ7,000円)で受講できます。ただし、費用や日程は地域や開催時期によって変わるため、最新情報は必ず管轄の消防署や日本防火・防災協会で確認しましょう。
※注1:防火管理者の選任義務は「収容人数30人以上」が基本要件ですが、自治体によって延べ面積や設備状況などで細部の基準が異なります。開業予定地を管轄する消防署へ事前に相談し、最新の要件を確認することをおすすめします。
必要な手続き
天ぷら料理店を開業するには、資格の取得に加えて、いくつかの行政手続きを済ませる必要があります。これらは営業を始めるための前提条件であり、手続きを怠ると開店できないだけでなく、営業停止などのリスクにもつながります。
ここでは、とくに重要な手続きについて解説します。
飲食店営業許可
天ぷら料理店を開業するには、まず「飲食店営業許可」を取得しなければなりません。申請先は店舗所在地を管轄する保健所です。許可が下りるまでに2週間ほどかかるため、開店日から逆算して早めに申請しましょう。
防火対象設備使用開始届
店舗として建物や区画を使い始める際は、使用開始の7日前までに管轄の消防署へ「防火対象設備使用開始届」を提出しなければなりません。内装業者が代行するケースもありますが、最終的な責任は店舗側にあります。
防火管理者の選任届
防火管理者を選任したら、速やかに管轄の消防署へ「防火管理者選任届」を提出します。あわせて「消防計画」を作成・提出し、火災予防や避難方法を定め、従業員への教育も行う必要があります。
さらに、深夜にアルコールを提供する場合は「深夜酒類提供飲食店営業開始届」、個人事業なら「個人事業の開廃業等届出書」、法人なら「法人設立届出書」といった手続きも必要です。具体的な要件は地域によって異なるため、事前に行政機関へ相談すると安心です。
※注2:「深夜酒類提供飲食店営業開始届」は深夜0時以降に酒類を提供する店舗にのみ必要です。通常の営業時間(深夜0時まで)で営業する場合は提出不要です。
天ぷら料理店の開業にかかる費用と内訳
天ぷら料理店の開業費用は、立地や規模、コンセプトによって大きく異なります。日本政策金融公庫の2024年度調査によると、飲食業の平均開業費用はおよそ985万円です。
ここでは「初期費用」と「運転資金」に分けて、その内訳を見ていきましょう。
- 初期費用:物件取得費・内装工事費・厨房設備費・調理器具や備品など
- 運転資金:家賃・光熱費・人件費・食材費・広告宣伝費など
初期費用
開業にあたってまず必要になるのが「初期費用」です。なかでも大きな割合を占めるのが物件取得費や内装工事費で、店舗の立地や物件の状態によって金額は大きく変動します。
【初期費用の内訳】
項目 | 目安金額 | 内容・ポイント |
物件取得費 | 100万~300万円 | 敷金・礼金・仲介手数料・造作譲渡代など。居抜き物件なら大幅に削減可能。 |
内装工事費 | 200万~600万円 | スケルトン物件では坪単価60万円以上になる場合も。居抜きなら半額以下に抑えられることも。 |
厨房設備費 | 100万~300万円 | フライヤー・換気フード・冷蔵庫・調理台など。とくに天ぷら用フライヤーと強力な換気設備は必須。 |
調理器具・備品費 | 50万~150万円 | 包丁・まな板・食器類・ユニフォームなど、日々の営業に必要な小物一式。 |
ただし、居抜き物件を活用すれば、内装や厨房設備を再利用でき、初期費用を大幅に安くできます。開業計画を立てる際は、どこに投資し、どこでコストを抑えるかを明確にすることが重要です。
運転資金
開業直後は売上が安定せず、想定より資金繰りが厳しくなるケースも少なくありません。そのため、最低でも6ヵ月分の運転資金を確保しておくことが大切です。
【主な運転資金の内訳】
項目 | 月間目安額 | 内容・ポイント |
家賃 | 20万~40万円 | 立地・規模により変動。固定費として毎月必ず発生。 |
光熱費 | 5万~10万円 | 揚げ物中心のためガス・電気代が比較的高め。 |
人件費 | 50万~100万円 | 従業員の人数や雇用形態によって大きく変動。 |
食材費 | 60万~80万円 | 季節・天候で価格変動が大きい。仕入れルートの工夫が重要。 |
広告宣伝費 | 5万~15万円 | チラシ、SNS広告、グルメサイト掲載など。 |
月商200万円を想定する場合、6ヵ月分としておよそ400万~600万円の運転資金を準備しておくと安心です。余裕のある資金計画を立てることで、予期せぬ出費や売上低迷の時期を乗り越えることができます。
天ぷら料理店の開業資金の調達方法
開業資金を用意する方法はいくつかあり、それぞれに特徴とメリットがあります。一般的には、総事業費の2~3割を自己資金で準備し、残りを融資で補うケースが多く見られます。ここからは、代表的な資金調達の手段を順に見ていきましょう。
- 日本政策金融公庫からの融資:自己資金要件なし、最大7,200万円まで借入可能
- 信用保証協会からの融資(制度融資):保証協会が保証人となり融資を受けやすい
日本政策金融公庫からの融資
日本政策金融公庫は、創業者向け融資を積極的に行う政府系金融機関です。
代表的な「新規開業・スタートアップ支援資金」は、最大7,200万円まで借入可能で、自己資金要件もありません。女性や30歳未満、55歳以上の起業家には特別利率が適用され、低金利で利用できるのも特徴です。
※注3:開業費用700万円〜1,800万円は一般的な目安です。立地(都心・地方)、店舗規模、コンセプト(高級志向・大衆向け)によって必要資金は大きく変動し、都心の一等地や高級店ではこれを超えるケースもあります。
※注4:日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」等の融資制度では制度上7,200万円まで借入可能ですが、実際に創業初期の飲食店が利用できる金額は事業計画や自己資金比率、審査結果によって大きく異なります。(記載の金額は制度上限であり)
信用保証協会からの融資(制度融資)
信用保証協会は、中小企業や個人事業者の資金調達を支援する公的機関です。保証協会が保証人となることで、民間金融機関からの融資を受けやすくなります。
制度融資の大きなメリットは、地方自治体の利子補給により実質的な金利負担を軽減できる点です。創業者向け優遇制度を利用すれば、金利1%台での融資も可能です。
一方で、保証料(融資額の0.5%~2.2%程度)が必要で、実行までに1~2ヵ月かかるため、計画には余裕を持たなければなりません。
そのほか、親族・知人からの借入やクラウドファンディング、補助金・助成金の活用といった選択肢もあります。
天ぷら料理店開業の流れ

天ぷら料理店を開業するには、事業計画の策定から物件探し、各種手続き、そしてオープン準備までを段階的に進める必要があります。
一般的な準備期間は6ヵ月~1年ほどです。余裕を持ってスケジュールを立てることで、資金や人材の確保、許可申請などをスムーズに進められます。
- 開業1年前〜6ヵ月前:コンセプト設計・事業計画策定
- 開業6ヵ月前〜3ヵ月前:物件探し・資金調達
- 開業3ヵ月前〜2ヵ月前:内装工事・設備導入、メニュー開発
- 開業2ヵ月前〜1ヵ月前:人材採用・各種手続き
- 開業直前〜開業:販促活動・プレオープン
【開業1年前〜6ヵ月前】コンセプト設計・事業計画策定
まずは店舗のコンセプトを固めます。高級志向か大衆路線か、健康志向か伝統重視かなど、方向性を決めることが物件選びやメニュー開発の基礎になります。
次に事業計画書を作成しましょう。市場分析や収支・資金計画をまとめ、金融機関が納得できる現実的な内容に仕上げることが資金調達では大切です。
【開業6ヵ月前〜3ヵ月前】物件探し・資金調達
この時期は、店舗の方向性を具体化するために物件探しと資金調達を同時並行で進める重要な期間です。ターゲット層が集まるエリアかどうか、駅からのアクセス、周辺の競合状況などを徹底的に調査しましょう。
初期費用を抑えたい場合は、居抜き物件の活用が効果的です。とくに天ぷら調理に必要な厨房設備が残っている物件は大きなメリットになります。
同時に資金調達も進めます。日本政策金融公庫や信用保証協会を活用する場合は、事業計画書が必須となるため、売上予測や資金繰りを具体的に記載し、説得力のある内容に仕上げましょう。
【開業3ヵ月前〜2ヵ月前】内装工事・設備導入
物件と資金の目処が立ったら、次は店舗の内装工事と設備導入に取りかかります。工事に入る前に、必ず保健所と図面を確認し、営業許可の基準を満たしているかチェックしましょう。
居抜き物件を利用する場合は、既存の厨房設備や内装をできるだけ活かすことで、工事費を大幅に削減できます。
【開業2ヵ月前〜1ヵ月前】人材採用・各種手続き
この時期には、厨房スタッフやホールスタッフの採用・教育を行います。調理技術だけでなく、接客マナーや天ぷらの食べ方を案内できるスキルを身につけさせることで、お客様満足度を高められます。
また、各種許認可の申請も余裕を持って進めましょう。飲食店営業許可は申請から許可まで約2週間、防火関連の届出は使用開始7日前までと、それぞれ期限が異なります。スケジュールを逆算し、計画的に手続きを進めることが大切です。
【開業直前〜開業】販促活動・プレオープン
開業直前は、SNSやグルメサイト、地域情報誌を活用して宣伝を強化しましょう。天ぷらは見た目にも華やかな料理なので、写真映えを意識した発信が集客につながります。
また、プレオープンを実施し、知人や同業者を招いて運営を試験的に行います。実際の営業で改善点を洗い出し、グランドオープンに向けて仕上げていきましょう。
天ぷら料理店の開業形態
天ぷら料理店を始める方法には、大きく分けて「独立開業」と「フランチャイズ開業」の2つがあります。どちらにも長所と短所があり、どの道を選ぶかは、自身のスキルやリスクへの考え方、そして理想とする経営スタイルによって決まります。
- 独立開業:自由度が高く、売上がそのまま収入になる一方、集客や経営ノウハウはゼロから築く必要がある
- フランチャイズ開業:ブランド力やノウハウを活用でき、未経験でも始めやすい一方、加盟金やロイヤリティが必要で自由度が制限される
独立開業
独立開業は、自分の技術や経験を最大限に活かしながら、自由な店舗運営を実現できるスタイルです。とくに長年の調理経験がある人にとっては、自分の味やこだわりを形にできる大きな魅力があります。
【メリット】
- 経営の自由度が高く、メニューや価格、営業時間などを自由に決定できる
- 加盟金やロイヤリティが不要で、売上がそのまま収入になる
- オリジナルのメニューや仕入れルートで独自性を出せる
【デメリット】
- ブランド力や集客力をゼロから築く必要があり、時間とコストがかかる
- 経営知識やノウハウを自力で学ぶ必要があり、開業初期は負担が大きい
フランチャイズ開業
フランチャイズ開業は、本部が持つ経営ノウハウやブランド力を活用できるのが大きな特徴です。研修制度や運営マニュアル、仕入れシステム、広告宣伝など、包括的なサポートを受けられるため、飲食業未経験でも始めやすい環境が整っています。
【メリット】
- 本部のノウハウやマニュアルを活用でき、未経験でも開業しやすい
- 既存ブランドの知名度を活かせるため、開業直後から集客が期待できる
- 本部の継続的なサポートで経営課題の解決がスムーズ
【デメリット】
- 高額な加盟金やロイヤリティが必要で、費用負担が大きい
- 本部の方針やルールに従う必要があり、経営の自由度が制限される
まとめ

天ぷら料理店の開業は、専門性の高さや季節感を活かしたメニュー展開、狭いスペースでも成り立つ経営効率のよさなど、多くのメリットがあります。資金調達では、日本政策金融公庫や信用保証協会の制度を活用するのが一般的です。
また、初期投資を抑えつつ安全に開業したい方には「居抜き物件」の活用がおすすめです。居抜き物件は内装や設備がすでに整っているため、新規で一から工事する必要がなく、コストを大幅に削減できます。さらに、開業までの準備期間を短縮できるのも大きな魅力です。
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