飲食店の開業を検討している方にとって、「造作譲渡」という言葉を耳にする機会は多いのではないでしょうか。造作譲渡とは、閉店した飲食店などの内装や設備をそのまま引き継ぐ仕組みで、譲渡を受ける側が一定の「造作譲渡料」を支払う形で契約が行われます。造作譲渡料は物件の状態や立地、設備の内容などにより異なりますが、交渉によって値切ることが可能なケースもあります。
今回は、飲食店の造作譲渡や譲渡料、譲渡の対象となるものから、譲渡料の相場、値切るための交渉のコツまで詳しく解説します。併せて、造作譲渡契約を結ぶ際の注意点や、造作譲渡で開業するメリット・デメリットにも触れていきます。
飲食店の造作譲渡・造作譲渡料とは?
飲食店の開業にあたり、コストや準備期間を抑える手段として注目されているのが「造作譲渡」です。まずは、造作譲渡の基本的な仕組みや造作譲渡料について詳しく解説します。造作譲渡での開業を検討している方は、まずこの基礎知識を押さえておきましょう。
造作譲渡とは
飲食店の造作譲渡とは、閉店した飲食店の内装や設備をそのまま譲渡することを指します。このような物件は「居抜き物件」と呼ばれ、原状回復(スケルトン化)を省略できる点が特徴です。
本来、賃貸契約で飲食店を閉店する際には内装や設備などを撤去し、契約当初の状態に戻す「スケルトン工事」が必要となります。しかし、造作譲渡を行えば、譲渡する側(前借主)はスケルトン費用を節約でき、譲渡を受ける側(新借主)も初期費用を大きく抑えることが可能です。
居抜き物件を活用することで、内装工事や設備導入の手間が省け、スピーディーに開業準備を進めることができるため、近年ますます注目されています。
造作譲渡料とは
造作譲渡料とは、譲渡される居抜き物件の内装・設備の買取費用を指します。譲渡を受ける側(新借主)が、譲渡する側(前借主)に対して支払います。なお、造作譲渡料の金額は、内装・設備の価値だけではなく、物件の立地や集客力などにも左右されます。また、造作譲渡料の金額は双方の合意で決まるため、交渉によって値切ることも可能です。
飲食店の造作譲渡の対象となるもの
一般的に、飲食店の造作譲渡の対象となるものは下記のとおりです。
・内装(壁・天井・床)
・建具(扉・引き戸など)
・空調設備(エアコンなど)
・厨房設備(コンロ、シンク、冷蔵庫など)
・排気・換気・ダクト設備
・給排水設備
・電気設備
・照明
・看板
・電話・通信設備
・レジスター
・食券販売機 など
また、物件によっては下記のようなものも譲渡に含まれることがあります。
・テーブル・椅子などの家具
・カウンター
・収納棚
・食器類
・調理器具
・清掃用品
・備品 など
譲渡内容は物件によって異なるため、事前に「何が造作に含まれているか」を詳細に確認することが重要です。
飲食店の造作譲渡料の相場
飲食店の造作譲渡料は、内装や厨房設備の状態、立地、業態などによって大きく異なりますが、一般的には100万〜350万円程度で取引されるケースが多い傾向にあります。
業態別に見ると、大型の厨房設備を備えた中華料理店や焼肉店などは、造作譲渡料が高額になる傾向があります。一方で、カフェやスナック、テイクアウト専門店などは比較的設備が簡素なため、譲渡料も低めになるケースが多いです。
カフェ・スナック・テイクアウト業態:100万〜200万円
和食・洋食・鉄板焼き・お好み焼き業態:200万〜300万円
中華料理・焼肉業態:300万円〜400万円以上
また、下記のような条件も金額に影響を与えます。
造作譲渡料が高くなりやすい条件 | 造作譲渡料が安くなりやすい条件 |
---|---|
・駅近や人通りが多い好立地 ・築浅で新しい設備が整っている ・人気飲食店の跡地で集客力が高い | ・郊外や集客に不利な立地 ・古い・故障している設備が多い ・処分が必要な不要設備が残っている |
造作譲渡料はさまざまな要素によって変動するため、一概に相場出すのが難しいですが、立地や条件の似た物件を調査・比較するなどして、適正価格を見極めることが大切です。
飲食店の造作譲渡料を値切る際の交渉のコツ
飲食店の造作譲渡料は明確な相場があるわけではなく、最終的には前借主(場合によっては貸主)と新借主の交渉によって金額が決まります。そのため、タイミングや物件の状態を見極めることで、譲渡料を値切ることが可能です。ここでは、飲食店の造作譲渡料を値切る際の交渉のコツを紹介します。
明け渡し日が近い物件で交渉する
造作譲渡料を値切るうえで有効なのが、明け渡し日(賃貸借契約の解約日)が迫っている物件を狙って交渉する方法です。譲渡する側は、通常、高めの造作譲渡料を設定して物件掲載を開始します。例えば、賃貸借契約の場合、解約の3〜6ヵ月前には貸主に解約の意思を伝える必要がありますが、その時点ではまだ譲渡料も高額に設定されていることが一般的です。
しかし、物件の明け渡し日が近づくにつれて、造作譲渡料は徐々に値下げされる傾向があります。これは、譲渡希望者が見つからないまま期限が迫ると、譲渡する側はスケルトン工事(原状回復)を行わなければならず、その費用を避けたい心理が働くためです。特に、明け渡し日まで1ヵ月を切るようなタイミングでは、無償での譲渡に切り替えられるケースもあります。
したがって、長期間掲載されている物件や、退去時期が迫っている物件は、値下げ交渉がしやすい好機といえます。ただし、あまりにも交渉を引き延ばすと、他の希望者に契約を先取りされてしまうリスクがあるため、タイミングの見極めが重要です。
また、物件によっては、造作譲渡契約の締結後に初めて賃貸借契約の解約手続きが行われるケースもあり、その場合は明け渡し日の目安が見えづらく、交渉のタイミングを図りにくい点には注意が必要です。
故障や劣化した設備を交渉材料にする
造作譲渡料を値切るためには、設備の状態を丁寧に確認し、交渉材料として活用することも効果的です。内覧の際には、厨房機器や空調設備、給排水設備などに故障や著しい劣化が見られないかをチェックしましょう。
例えば、コンロが点火しない、冷蔵庫の冷却性能が落ちている、換気扇の動作音が異常に大きいといった不具合があれば、それらを理由に造作譲渡料の値下げを提案できます。
修理が必要な設備や、老朽化が激しく処分を要するような備品が含まれている場合は、譲渡後に修理・処分の費用がかかるため、交渉時にそのコストを見積もって値引きを求めるのも良いでしょう。
ただし、交渉はあくまで相手との信頼関係のうえに成り立つもの。過剰な値下げ要求や横柄な態度をとれば、別の購入希望者に先を越されてしまうおそれもあります。設備の状態を冷静かつ客観的に伝え、適切な根拠をもとに交渉することが大切です。
飲食店の造作譲渡契約を結ぶ際の注意点
飲食店の造作譲渡契約を結ぶ際は、いくつか注意点があります。譲渡後のトラブルを防ぐためにも、下記のような点を確認しましょう。
- 貸主に造作譲渡の了承を得ているかを確認する
- 造作譲渡の内容を確認する
- リース品の有無を確認する
- 設備などに不具合がないかを確認する
- 退去時の原状回復について確認する
貸主に造作譲渡の了承を得ているか確認する
造作譲渡契約を進めるにあたって、見落としてはならないのが「貸主(大家)の了承」です。そもそも、店舗の賃貸借契約と造作譲渡契約は別物で、賃貸借契約は貸主と、造作譲渡契約は通常、前借主(現テナント)との間で結ばれます。
しかし、店舗物件の所有者である貸主が造作譲渡に同意していない場合、たとえ前借主と話がまとまっていても、契約自体が成立しない可能性があります。契約後に「貸主の承諾が得られていなかった」と判明すると、大きなトラブルや損失につながるため、事前に貸主の了承が確実に取れているかを必ず確認しましょう。
また、ケースによっては、前借主が退去時に店舗内の造作物の権利を貸主に譲渡している場合もあります。その場合は、造作譲渡契約の相手が前借主ではなく貸主になるため、契約先をしっかり把握しておくことも重要です。
造作譲渡の内容を確認する
造作譲渡契約を結ぶ際には、「どのような設備や備品が譲渡対象になっているのか」を事前にしっかり確認することが重要です。造作譲渡料は、基本的に内装や厨房設備、家具などを一式まとめて見積もられるケースが多いため、新借主にとって不要な設備や老朽化した備品まで含まれている可能性があります。
そうした不要な造作物があると、後から処分の手間や費用が発生するだけでなく、開業スケジュールにも影響を及ぼしかねません。そのため、契約前の段階で具体的に「どの設備が譲渡対象に含まれているか」「状態はどうか」などを細かくチェックしておきましょう。
もし明らかに不要な設備や処分が必要な備品が含まれている場合は、それらを交渉材料として造作譲渡料の値引きを提案することも可能です。譲渡内容の確認は、納得のいく契約を結ぶために欠かせないステップといえるでしょう。
リース品の有無を確認する
造作譲渡契約を結ぶ際には、譲渡対象の設備にリース品が含まれていないかを必ず確認しましょう。リース品とは、リース会社から借りて使用している設備や什器類のことで、飲食店では冷蔵庫・冷凍庫、コンロ、食洗機、エアコン、レジ、テーブルや椅子、さらには食器類に至るまで、さまざまなアイテムがリース契約の対象となっている可能性があります。
リース品は、基本的に前借主とリース会社との契約によって使用されているものであり、勝手に譲渡対象に含めてしまうとトラブルに発展するおそれがあります。そのため、契約前にリース品の有無とその扱いについて、前借主と明確に確認・協議する必要があります。
リース品がある場合は、前借主が返却・処分するのか、それとも新借主が引き継ぐのかを決めなければなりません。ただし、引き継ぐ場合でもリース会社の承諾が必要となるため、必ず事前にリース会社との調整を行うことが大切です。
また、引き継ぎに際してリース契約の残債がある場合には、その支払いを新借主が負担するケースもあります。残債が多いようであれば、その金額を根拠に造作譲渡料の値引きを交渉するのも1つの方法です。
設備などに不具合がないか確認する
造作譲渡契約を結ぶ前に、譲渡対象となる設備に不具合がないかを丁寧に確認することが重要です。というのも、契約が成立した後は、その設備の修理や処分に関する責任がすべて新たな借主に移るためです。
契約後に不具合が発覚し、「修理に高額な費用がかかった」「廃棄に予想外のコストがかかった」といった事態に陥るケースも少なくありません。特に築年数が経っていたり、設備が老朽化している物件では要注意です。
内覧時や契約前には、すべての設備が正常に稼働するかを確認するだけでなく、使用開始から何年経っているか、メーカー保証が残っているか、保証書が保管されているかといった点も合わせてチェックしておくことをおすすめします。確認作業を怠ると、後々のコストやトラブルにつながるおそれがあるため、慎重な対応が求められます。
退去時の原状回復について確認する
造作譲渡契約を結ぶ前に、自身が退去する際の原状回復義務について、貸主にしっかり確認しておくことが大切です。造作譲渡を受けた物件では、すでに内装や設備が経年劣化していることも多く、自分が退去する際には造作譲渡による再譲渡が難しくなっているケースもあります。
その結果、原状回復としてスケルトン工事(解体工事)を求められ、高額な出費が発生する可能性もあります。多くの人が「借りたときの状態で返せばいい」と考えがちですが、それが通用しない場合もあるため注意が必要です。
あらかじめ、契約時に退去時の原状回復の範囲や方針を貸主と確認し、必要に応じてどの程度の費用がかかるのかを見積もっておくと、将来の負担を想定しやすくなります。開業時の費用だけでなく、退去時のコストも視野に入れたうえで契約内容を検討することが、失敗しない物件選びの鍵となります。
飲食店の造作譲渡で開業するメリット
「造作譲渡による開業=居抜き物件の活用」という選択肢に対して、費用面や実務面で魅力を感じながらも、一歩踏み出せずに迷っている方も多いかもしれません。そこで、造作譲渡を利用して開業することで得られる具体的なメリットを紹介します。
初期投資を抑えて開業できる
造作譲渡による開業の最大の魅力は、初期投資を大幅に削減できる点にあります。前の店舗に設置されていた内装や厨房機器、空調設備、家具などをそのまま利用できるため、一から内装工事を行ったり、新品の設備をそろえたりする必要がありません。
さらに、交渉によって造作譲渡料の値引きができれば、より少ない資金で事業をスタートすることが可能です。早期に初期投資の回収ができるため、サービス強化やプロモーション、新たな設備投資などに資金を回すことができ、経営の安定化にもつながります。
開業までの時間を短縮できる
居抜き物件は、内装や設備がすでに整っているため、スケルトン物件に比べて開業準備の期間を大幅に短縮できます。通常であれば内装設計、設備工事、各種申請などに数ヵ月かかるケースもありますが、造作譲渡物件ならば、必要最低限のクリーニングや微調整のみで済むことも珍しくありません。
結果として、開業までのリードタイムが短縮され、営業開始までの賃料負担も軽減されます。「できるだけ早くお店をオープンしたい」という方にとっては、大きなアドバンテージとなるでしょう。
既存顧客を取り込みやすい
造作譲渡物件は、もともと飲食店として営業していた場所であるため、すでに地域住民や通行人の間で「ここにはお店があった」という認知があるケースがほとんどです。そのため、開業当初から前店舗の顧客が「新しいお店ができた」と訪れてくれる可能性もあります。
特に、前店舗が一定の集客力を持っていた場合、その立地や雰囲気に魅力を感じていた顧客層を自然な形で取り込める点は大きなメリットです。ゼロからブランド認知を築くよりも、スタートダッシュを切りやすく、早期の売上安定にもつながります。
飲食店の造作譲渡料は値切ることが可能
飲食店の造作譲渡料は、譲渡する側と譲渡を受ける側の合意によって最終的な金額が決まるため、状況次第では値下げ交渉が可能です。特に明け渡し日が迫っている物件では、譲渡する側がスケルトン工事を避けたいと考えていることもあり、交渉に応じやすい傾向があります。
また、設備の故障や劣化といったマイナス要素がある場合は、それを根拠に造作譲渡料の減額を提案できます。ただし、強引な値下げ交渉は印象を悪くし、他の買い手に物件を譲られてしまうリスクもあるため、誠実な姿勢で臨むことが大切です。
なお、居抜き物件を探す際は、専門の不動産サービスを利用するのも有効です。「居抜きの神様」では、東京を中心に千葉・埼玉・神奈川・大阪・京都・福岡など、多くのエリアの居抜き物件を取り扱っています。大規模な一棟貸しから小規模店舗まで、業態や運営スタイルに合わせた幅広い物件を紹介可能です。造作譲渡を活用してコストを抑えつつ理想の飲食店を開業したい方は、ぜひ「居抜きの神様」までご相談ください。
コメント