飲飲食店を開業するには、さまざまな行政手続きを行う必要があります。なかでも重要なのが「開業届」と「営業許可証」ですが、これらの違いや役割については意外と知られておらず、「どちらを先に出すの?」「両方必要なの?」と迷う方も多いかもしれません。本記事では、開業届と営業許可証の違いを解説するとともに、飲食店開業に必要なその他の届出や手続きについても紹介します。
開業届とは
まずは開業届とは何かについて説明します。
個人事業主として開業したことを税務署に知らせる書類
開業届とは、個人が事業を開始したことを税務署に申告するための書類のこと。正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。所得税法第229条により、個人事業主として新しく事業を始める時には開業届の提出が義務付けられています。飲食店の個人経営においても、事業所得が生じるため提出が必須です。開業届を提出する時期は開業してから1ヵ月以内と決まっているため、忘れずに提出しましょう。
開業届を提出するメリット
開業届を提出することで、事業主として優遇制度や支援を受けられるというメリットがあります。代表的なものを紹介します。
青色申告を選べる
個人事業主の確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があり、開業届を提出することで青色申告が選択できます。青色申告には最大65万円の特別控除を受けられるなど税制上のメリットがあります。また赤字になった年は損失申告ができ、最長3年間の繰り越しが可能です。損失申告により、赤字を次の年の所得から差し引けるので、節税につながります。
職業証明になる
開業届は、個人事業主であることを示す公的な証明書になります。たとえば、飲食店の物件を賃貸契約する際の審査や、事業資金の融資を申し込む際に提出を求められることも。また、事業主が子どもを保育所に預ける際の就労証明としても利用できます。
小規模企業共済に加入できる
開業届を提出することで、小規模企業共済など個人事業主を対象としている支援制度を利用できます。小規模企業共済とは、個人事業主のための公的な退職金制度です。この支援制度を利用する際は、個人事業主であることを証明するために開業届の控えが必要です。
営業許可証とは
飲食店の営業許可証とは、食品衛生法に基づいて保健所から発行される許可証のことです。営業許可を受ける場合に必要な資格や手順についても解説します。
飲食店に保健所から発行される許可証
飲食店営業許可証とは、食品を扱う営業施設に対して保健所から発行される許可証のこと。この許可は保健所に申請し、施設が食品衛生法に基づく基準を満たしているかどうかの検査に合格することで発行されます。営業許可がない状態では、飲食店として料理の提供や酒類の販売を行うことはできません。開業前には必ず手続きを完了させておく必要があります。申請のタイミングは、開業予定日の約1か月前が目安です。
食品衛生責任者の資格が必須
飲食店営業許可を取得するには、食品衛生責任者の資格取得が必須です。食品衛生責任者とは、食品衛生法に基づいて施設の衛生管理を行う責任者のこと。食品衛生責任者の資格を取得するには、自治体が開催している食品衛生責任者養成講習会を受講し、保健所に申請します。ただし、栄養士や調理師、製菓衛生師、食品衛生管理者などの有資格者は、講習を受けずに食品衛生責任者を申請できます。
営業許可証取得までの流れ
営業許可取得の流れは、1. 事前相談、2. 営業許可申請の提出、3. 保健所による施設検査、4. 営業許可証の交付の4ステップです。
営業許可を申請する前に、店舗所在地を管轄する保健所へ相談します。相談の際は、基準を満たしているか確認するために、工事の計画書や物件の平面図などを用意しましょう。基準を満たさない場合は、工事前に修正が可能です。
所定の申請書や必要書類を揃えて保健所に提出します。飲食店営業許可申請書は各自治体や厚生労働省のホームページ、保健所の窓口などで取得できます。事前相談で図面に問題がなければ、工事を開始できます。工事を終了した時点で施設検査を受けられるよう、工事完了の10日前までを目安に提出しましょう。
書類申請後、保健所の担当者による現地の立会検査が行われます。検査では保健所が定めた基準に適合しているか、設計書通りになっているかなどが確認されます。基準に満たない場合は、改善して再検査が必要です。
立会検査に合格すると、営業許可証が交付されます。営業許可証の交付予定日が郵送で通知されるので、交付予定日に保健所へ行って窓口で営業許可証を受け取ります。営業許可証は、店舗内の見える場所に掲示してください。許可には有効期限があるので、忘れずに更新しましょう。

開業届と営業許可証の違い
開業届と営業許可証は、どちらも飲食店を開業する際に必要ですが、管轄や目的が異なります。開業届は税務署に提出する事業を開始したことの申告書です。個人事業主の登録に使われます。一方、営業許可証は食品衛生法に基づいて保健所が発行するもので、飲食店で営業するための許可証です。
届出名 | 提出先 | 提出期限 |
---|---|---|
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書) | 税務署 | 開業から1ヵ月 |
飲食店営業許可 | 保健所 | 開業の1ヵ月前 |
飲食店の開業に必要なその他の届出・手続き
飲食店の開業には、開業届と営業許可証の他にもいくつかの届出や手続きが必要です。届出や手続きには、全ての飲食店経営者が必ず申請すべきものから、店舗の規模やジャンルにより必要なものもあります。それぞれの概要について解説します。
【必須】防火対象物使用開始届
飲食店として建物を使用する際、消防署への提出が必要な届出です。防火設備や避難経路の状況など、建物が消防法の基準に適合しているかどうかの審査を受けます。防火対象物使用開始届の提出期限は、開業の7日前までです。
- 消火設備:消火栓やスプリンクラーなど
- 警報設備:火災発生時に通報するための装置
- 避難設備:災害発生時に避難するための避難はしごや救助袋など
防火管理者選任届
店舗の収容人数が30人以上の場合、消防署への提出が必要な届出です。防火管理者とは、建物や施設における火災発生時の被害を防止するため、消防計画の作成や消防用設備の維持管理、避難訓練の実施といった防火管理業務を行う責任者のこと。
防火管理者には2種類あり、店舗の延床面積が300平方メートル以上なら甲種防火管理者、300平方メートル未満なら乙種防火管理者を選出します。防火管理者は所定の講習を受講して資格を取得し、営業開始日までに消防署へ届出をしてください。
防火対象物工事等計画届出書
店舗の内装や設備工事を行う際に必要な届出です。防火対象物とは不特定多数の人に利用される建造物のこと。人の出入りが多い場所は、火災の際に大きな被害が出る可能性があるため、飲食店も防火対象物に当てはまります。工事を始める7日前までに管轄消防署に提出しましょう。
深夜酒類提供飲食店営業開始届出書
深夜0時~翌朝6時までの間に酒類を提供する場合、風営法に基づき警察署へ提出します。対象となるのは、居酒屋や立ち飲み屋、ダイニングバーといったお酒の提供をメインとする業態のお店です。深夜営業をしていても、ファミリーレストランやラーメン店のように食事の提供をメインとする場合は不要なのが一般的。ただし、おでん屋や焼き鳥屋など、食事を提供してもお酒を伴う営業形態では注意が必要です。
届出は営業開始日の10日前までに行います。深夜酒類提供飲食店に該当するのかどうかは、所轄の警察署の判断になりますので、事前に相談しておきましょう。
風俗営業許可申請
接待を伴う飲食店や遊技場など、特定業種の営業を行う際は許可が必要です。風俗営業については、店舗の構造や照明設備、騒音基準などに条件があり、営業できる地域は商業地域などのエリアに限られます。事前に条件を確認したうえで申請してください。審査には1~2ヵ月かかります。許可を受けずに営業を行うと50万円以下の罰金など処罰の対象になるので注意が必要です。
労災保険の加入手続き
労災保険とは、従業員が勤務中あるいは通勤時に傷病などを負った場合に補償を受けられる制度です。雇用形態に関わらず、従業員を雇用する場合は加入が必要です。従業員を雇用した翌日から10日以内に労働基準監督署にて手続き行います。
雇用保険の加入手続き
雇用保険とは従業員が失業した際に失業給付を受けられる制度です。従業員の1週間の労働時間が20時間以上、かつ31日以上継続して雇用する場合は加入が必要です。雇用した翌日から10日以内に公共職業安定所(ハローワーク)で手続きを行いましょう。
【一覧】飲食店の開業に必要な届出・手続き
造食店の開業に最低限必要な届出・手続きを以下の表にまとめました。提出期限も記載していますので、参考にしてください。
届出・手続き名 | 提出先 | 提出期限 | 概要 |
---|---|---|---|
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書) | 税務署 | 開業から1ヵ月以内 | 個人事業を始めたことを税務署に届け出るための書類 |
飲食店営業許可申請 | 保健所 | 開業の1ヵ月前 | 飲食店営業に必須。保健所の検査が必要 |
防火対象物使用開始届 | 消防署 | 開業の7日前まで | 飲食店営業に必須。店舗の消防設備や防火対策を報告 |
防火管理者選任届 | 消防署 | 開業日まで | 店舗の収容人数が30人以上の場合に必要 |
防火対象物工事等計画届出書 | 消防署 | 工事を始める7日前まで | 店舗の内装や設備工事を行う際に必要 |
深夜酒類提供飲食店営業開始届出 | 警察署 | 開業の10日前まで | 酒類の提供をメインとし、深夜0時以降も酒類を提供する際に必要 |
風俗営業許可申請 | 警察署 | 開業の2ヵ月前※ | 接待を伴う飲食店や遊技場など、特定業種の営業を行う際に必要 |
労災保険の加入手続き | 労働基準監督署 | 従業員を雇用した翌日から10日以内 | 従業員を雇用する場合に必要 |
雇用保険の加入手続き | 公共職業安定所 | 従業員を雇用した翌日から10日以内 | 従業員の1週間の労働時間が20時間以上で31日以上継続して雇用する場合に必要 |
※風俗営業許可は審査に1~2ヵ月かかります。
開業届や営業許可に関する注意点
最後に開業届や営業許可を申請する際に気をつけるべきことを説明します。
開業届を提出すると、扶養から外れる場合がある
家族の扶養に入っている人が開業届を提出して個人事業主になった場合、扶養者の加入している健康保険組合によっては被扶養者の対象から外れる可能性があります。被扶養者でなくなった場合、個人事業主自身で健康保険に加入して保険料を負担する必要があります。きちんと対応できるよう、事前に扶養者が加入する健康保険組合の被扶養者の条件を確認しておきましょう。
余裕をもって提出する
開業届は開業日から1ヵ月以内、営業許可申請は開業予定日の1ヵ月前を目安に行います。手続きが遅れると、開業日が延期になったり、無許可営業とみなされたりする恐れがあるので注意してください。なお、無許可営業とみなされると、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられる場合があります。さらに、無許可で営業し罰則を受けた場合、営業停止やその後、2年間、営業許可証取得ができなくなります。
許可には期限がある
飲食店営業許可には有効期限があり、期限が切れる前に更新手続きが必要です。自治体によりますが、有効期限は5年から8年が一般的です。正確な期限については、交付された営業許可証に記載されているので必ず確認しましょう。期限を過ぎると無許可営業となり、営業停止や罰則の対象となります。
開業届と営業許可証の違いを理解し、スムーズな開業を目指そう
飲食店を開業する際には、開業届と営業許可証が必要です。開業届は、個人で事業を始めることを税務署に届け出るもの。個人事業主としての活動を始める基盤となります。一方、営業許可証は保健所が発行するもので、飲食店として食品を提供するために法的に取得が義務付けられています。
さらに食品衛生責任者の資格取得や防火関連の届出など、開業時にはさまざまな手続きが必要です。事前に内容を把握し、無理なく取り組むことが成功への第一歩です。
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