飲食店を閉店するには?手続きの流れと費用を抑えて円満に店を畳むコツを紹介

飲食店の閉店を考え始めたとき、「何から手をつければいいのか」「いくらかかるのか分からない」と不安を抱える方も多いでしょう。閉店は簡単な決断ではありませんが、進め方を誤ると原状回復費や違約金で想定以上の負担が発生することもあります。一方で、手順や選択肢を早めに知っておけば、費用やトラブルを抑えて店を畳むことが可能です。この記事では、飲食店閉店の全体の流れと必要な費用、費用を抑えるポイント、円満に店を畳む挨拶の仕方などを解説します。
飲食店が閉店に至る主な理由と背景
飲食店の閉店には、経営的な要因と個人的な事情の両面が関わっています。
最も多いのは売上減少・原価高騰・人手不足といった経営上の問題です。食材費や光熱費の値上がりに加え、最低賃金の上昇で人件費負担が増し、利益を確保できなくなるケースが増えています。特にコロナ後は外食需要が変化し、テイクアウトやデリバリーへの対応が求められる一方で、客単価や来店頻度が回復せず、経営環境の変化についていけない店舗も少なくありません。
家族の事情や体力面、将来設計の見直しも閉店の大きな理由です。長時間労働による体調不良、家族の介護、後継者不在といった個人的な事情から、「今のうちに店を畳んで次に進みたい」と決断する経営者も。閉店は必ずしも失敗ではなく、状況に応じた前向きな選択でもあるのです。
飲食店の閉店準備はいつから?全体の流れとスケジュール
閉店を決断しても、すぐに店を閉められるわけではありません。特に飲食店の場合、賃貸契約や従業員の雇用が絡むので、閉店希望日の3ヶ月〜6ヶ月前から準備を始めるのが一般的です。まずは、閉店までの全体の流れとスケジュールを説明します。
【3〜6ヶ月前】賃貸借契約を確認し、解約予告を行う
閉店を考え始めたら、まずは店舗の「賃貸借契約書」を確認し、契約書にある解約予告期間を把握します。一般住居の退去は1ヶ月前の通告が多いですが、飲食店のテナント契約は3ヶ月前~6ヶ月前の通告を義務付けているのが一般的です。
「解約予告は6ヶ月前」という契約にもかかわらず、来月閉店したいと申し出てしまうと、実際に閉店した後も5ヶ月分の家賃(いわゆる空家賃)を支払い続けなければなりません。無駄なコストを抑えるために、解約予告の期限から逆算して閉店日を設定しましょう。
【3ヶ月〜1ヶ月前】従業員・取引先へ閉店を伝え、実務を進める
閉店日が決まったら、関係者への連絡と実務を始めます。
従業員への通知は、労働基準法により「30日前までの予告」が義務付けられています。直前の告知はトラブルの元になるだけではなく、解雇予告手当という余計な費用の発生にもつながります。遅くとも1ヶ月前、できれば余裕を持って伝えるのが誠実な対応です。
取引先へも連絡が必要です。仕入れ業者やお酒の卸業者へ閉店を伝え、最終納品日を調整します。在庫を抱えすぎないよう、仕入れ量を調整し始めるのもこの時期です。
また、電気、ガス、水道といったライフラインの解約日を予約します。特にガスは閉栓の立ち会いが必要な場合があるため、早めに連絡しておきましょう。
【閉店直前〜閉店後】提出・返納が必要な行政手続きを行う
閉店に伴い、各行政機関への届出が必要です。提出期限が「閉店から10日以内」などと決まっているものも多いため、リストにして管理することをおすすめします。
主な提出先と書類
| 行政機関 | 届出 |
|---|---|
| 保健所 | 廃業届(閉店から10日以内) 飲食店営業許可証の返納 |
| 警察署(深夜にお酒を提供していた場合など) | 深夜酒類提供飲食店営業の廃止届出書(閉店から10日以内) 風俗営業廃止届出書(スナックなどの場合) |
| 税務署 | 個人事業の開業・廃業等届出書(廃業から1ヶ月以内) 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(従業員を雇っていた場合) 消費税の事業廃止届出書(課税事業者の場合) |
| 公共職業安定所(ハローワーク)・年金事務所 | 雇用保険・社会保険の資格喪失手続き(従業員を雇用していた場合) |
手続きを怠ると、税務上の不利益を被ったり、将来再起する際に支障が出たりする恐れがあります。漏れなく進めましょう。

飲食店を閉店するときにかかる費用はいくら?内訳と相場
一般に飲食店の閉店には賃料の6〜10ヶ月分程度の費用がかかると言われています。手元の資金がなくなってからでは、費用の支払いが難しくなってしまいます。費用の全体像を把握し、計画的に進めましょう。
原状回復工事(スケルトン戻し)
閉店コストの大部分を占めるのが、店舗を入居時の状態に戻す「原状回復工事」です。多くの賃貸契約では、内装や設備をすべて撤去し、コンクリート打ちっぱなしの状態にする「スケルトン戻し」が義務付けられています。
近年、建築資材や人件費の高騰により、解体費用の相場も上がっています。一般的な解体費用の相場は、1坪当たり5万円~10万円です。20坪の居酒屋の場合、100万円~200万円が費用の目安ですが、業種や物件の広さ、状態により費用は変わります。
特に、座敷を作るために床を上げている場合や、ダクト・排気設備が複雑な場合は、撤去費用がさらに高額になる傾向があります。まずは手元の見積書や契約書を確認し、どれくらいの規模の工事が必要か把握しておきましょう。
違約金・リース残債・廃棄処分費
工事費以外にも、閉店時にはまとまった現金が必要になります。主なものに、解約違約金、リース残債、廃棄処分費があります。
解約違約金は、賃貸契約期間の途中で解約する場合や、「解約予告期間」を守らずに急に退去する場合に発生します。家賃の数ヶ月分を請求されるケースが一般的です。
リース残債は、業務用冷蔵庫、製氷機、POSレジなどをリース契約で導入している場合の残りのリース料です。閉店しても、リース料の支払い義務はなくなりません。原則として、残りのリース料を一括返済する必要があります。
また、店から出るゴミは「事業系産業廃棄物」として処理します。家庭ゴミのように無料では廃棄できないので、不用品回収業者に依頼する廃棄処分費も必要です。
閉店までの運転資金と従業員への支払い
閉店日を迎えるまで、店は営業を続けます。その間の運転資金も必要です。
売上が下がっても、最終月までの家賃・光熱費・仕入れ代金といった固定費はかかり続けます。また、従業員の給与・解雇予告手当も忘れてはいけません。 最後の給与はもちろんですが、注意したいのが「解雇予告手当」です。30日前までに解雇予告ができず、急な閉店を告げるような場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う法的義務が発生します。
飲食店の閉店費用を抑えるには
飲食店を閉店する際は、さまざまな費用がかかります。適切な対策を取ることで、閉店費用を大幅に抑えられます。閉店費用を節約するための方法を紹介します。
居抜き売却を検討する
閉店時の費用削減において最も効果が大きいのが、内装や厨房設備をそのまま次の入居者に引き継ぐ「居抜き売却(造作譲渡)」です。
賃貸契約の場合、通常は退去時に「スケルトン戻し(解体工事)」が必要です。居抜き売却で次のテナントが決まれば、原状回復工事をする必要はなくなり、100〜200万円単位の工事費が不要になります。さらに、内装や設備を次の入居者に買い取ってもらうことで、数十万円〜数百万円の売却益(造作譲渡金)を得られる可能性もあります。
ただし、居抜き売却を行うには家主(貸主)の承諾が必須です。また、次の入居者を見つける時間も必要です。次の入居者を見つける前に、家主に「解約予告」を出してしまうと原状回復義務が確定してしまう場合も多いので、閉店を決めた時点で居抜き売却の検討をしましょう。
厨房機器・什器を売却する
厨房機器や店舗什器は、中古市場で需要があります。居抜きでの引き継ぎができない場合でも、そのまま処分せずに専門の買取業者に依頼しましょう。解体業者に処分を任せると「処分費」がかかりますが、買取業者なら逆に「現金」になります。
高く売るコツは、 1社だけではなく複数の業者に見積もりを依頼(相見積もり)することです。ただし、リース契約中の機器は勝手に売却できません。必ず契約内容を確認してください。
契約内容を確認する
賃貸契約書やリース契約書の内容を把握し、閉店のタイミングを見極めることが大切です。
賃貸契約書の確認ポイント
- 解約予告期間:飲食店テナントでは3〜6ヶ月前の予告が一般的です。期限を守らないと空家賃が発生するため、早めに通知しましょう。
- 契約満了日:更新のタイミングで閉店すれば、違約金や更新料を回避できる可能性があります。
リース契約書の確認ポイント
- 残債の有無:厨房機器などのリース契約に残債がある場合、解約時に一括請求されます
- 中途解約の違約金:契約期間中の解約には違約金が発生するケースもあります。満了時期を確認します。
賃貸契約の解除や原状回復の範囲については、交渉次第で費用を抑えられる場合があります。不動産業者や弁護士などの専門家に相談することで、有利な条件を引き出せることもあります。判断に迷ったら早めに相談しましょう。
飲食店の閉店を円満に知らせるには?関係者への伝え方とタイミング
閉店のお知らせは、それまでの感謝を伝える場であると同時に、混乱や誤解を防ぐためにも重要です。タイミングを間違えると、トラブルや禍根を残すことにつながりかねません。
従業員への伝え方
労働基準法では、解雇する日の「少なくとも30日前」に予告することが義務付けられています。もし予告が30日に満たない場合は、不足日数分の給与(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
閉店日の1ヶ月〜1ヶ月半前に閉店の事実を伝え、さらに解雇の時期、これまでの感謝、(必要であれば)解雇予告手当や退職金の有無を話しましょう。金銭的な補償だけでなく、次の就職先を探すためのシフト調整に応じたり、知人の店を紹介したりするなど、経営者としてできる限りのサポートをすることが、トラブルを防ぐ誠意ある対応です。

取引先への伝え方
仕入れ業者や酒屋など取引先への連絡は、契約解除や精算の調整が必要なため、閉店日の1〜2ヶ月前に行うのが一般的です。特に掛け売り(ツケ)で取引している場合、閉店の噂が回ると「未払い金を踏み倒されるのではないか」と不安を与えてしまいます。 いつまで納品が必要か、最終の支払いはいつになるかを明確に伝えます。
これまでお世話になったことへの感謝を伝え、最終支払日を約束通り守ることで、将来また飲食業界に戻ったり、別の場所で会ったりした際も、笑顔で挨拶できる関係を残せます。
常連客への伝え方
最後に、お店を愛してくれたお客様への告知です。一般的には閉店の1ヶ月前〜2週間前に店頭の張り紙、SNS、DM(はがき)などで告知します。
文章は「経営不振による閉店」というネガティブな言葉だけで終わらせず、「皆様のおかげで5年間営業できました」という感謝の言葉と、「次のステップに進むための決断(店じまい)」という前向きなニュアンスを込めましょう。そうすることで、最終営業日までお客様が足を運んでくれ、温かい空気の中で最後の日を迎えられるでしょう。

飲食店の居抜き売却を成功させるポイント
居抜き売却で買い手を見つけ、さらに高く売るには工夫が必要です。成功のために意識したいポイントを説明します。
店舗内の清掃・整理整頓を徹底する
居抜き売却では、買い手が内装や厨房設備をそのまま使うことを前提としているため、店舗の清掃状態が査定額に直結します。
内見時の第一印象は特に重要で、「この店なら繁盛しそうだ」と思わせることが高額売却につながります。なかでも厨房機器の油汚れやグリストラップ(油水分離阻集器)は厳しくチェックされるので、徹底的に清掃しましょう。閉店する店だからと手を抜かず、不用品を片付け、可能な限り磨き上げておくことが大切です。
設備や内装の点検も忘れずに行いましょう。エアコンや厨房機器の動作確認、電球の交換、壁紙の状態チェックなど、不備があればメンテナンスしておくことで契約後のトラブルを防げます。
店内だけではなく、窓・ドア・床・店舗前といった来客者の目につきやすい場所も清潔に保つことで、買取希望者に好印象を与えられます。
造作譲渡リストを作成する
居抜き売却をスムーズに進めるために、事前に造作譲渡リストを作成しましょう。「何が譲渡対象で、何がリース品か」を明確にしておくことで、「冷蔵庫は付いていると思ったのにリースだった」といった契約後のトラブルを防げます。
リースの残債を確認する
店舗設備の中にリースがある場合は、残債を確認しておきましょう。買い手にリース契約を引き継ぐ方法もありますが、旧契約者(売主)が連帯保証人にならなければいけないケースがあり、リスクが残ります。可能であれば、居抜き売却の収益からリース残債を完済し、買い手に所有権を譲渡する方法がおすすめです。
居抜き売却専門の業者に依頼する
飲食店の居抜き売却は特殊な取引であるため、店舗売買や居抜き物件に特化した専門業者に依頼することが効果的です。専門業者は市場動向に詳しく、適切な買い手を見つけるサポートをしてくれます。複数の業者に相談し、力になってくれそうなところを選びましょう。
飲食店の閉店を決めたら、余裕をもって準備を始めよう
飲食店の閉店は、手続きや費用、関係者への配慮など多くの準備が必要です。特に、賃貸契約の解約予告や従業員への解雇通知はタイミングを誤ると大きな負担につながるため、余裕を持って進めましょう。原状回復工事や設備処分などの閉店費用も、方法次第で大きく差が出ます。飲食店の閉店を検討する際は、費用を抑えながら円満に畳むために居抜き売却といった選択肢も視野に入れるのも一つの方法です。
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