楠野商会代表の楠野浩市氏(右)と、シェフの涌井信介氏(左)。
楠野浩市氏のキャリアとは
~2011年
熊本郷土料理店やコンセプト居酒屋などの大衆酒場から、バー、イタリアン、割烹料理店まで幅広い業態で、十数年、経験を積む。
~2019年
飲食店での経験を生かし、飲食店の運営を支える食品卸の会社へ入社。
無農薬野菜を飲食店へ提供する営業として8年ほど勤務し、ノウハウを習得。
~2025年
個人事業主として食品卸業で独立する準備を進めていたが、コロナ禍により計画は頓挫。
無農薬野菜の栽培を学び始め、農園の運営や観光農園の立ち上げに従事。
また、相模原の猟師と出会ったことを機に、有害鳥獣駆除員として狩猟活動を開始。第一次産業の現場で働くことで、食への理解をより深める。
2025年
杉並区西荻窪駅にジビエ酒場「WILD NOTE TABLE」をオープン。
西荻窪の居抜き物件でジビエ酒場をオープンするまでの軌跡
オーナーの楠野浩市氏は、20代前半から飲食業界のキャリアを歩み始め、熊本郷土料理店やコンセプト居酒屋などの大衆酒場から、バー、イタリアン、割烹料理店まで幅広い業態で経験を積んできた。最終的に神楽坂の割烹料理店で働いていたものの、2011年、東日本大震災の影響で閉店。
その後は、飲食店運営を支える業務を志し、食品卸の会社へ入社した。無農薬野菜を飲食店へ提供する営業として8年ほど勤務し、ノウハウを習得すると退職。2019年、個人事業主として食品卸業で独立する準備を進めていたが、コロナ禍により計画は頓挫してしまう。
そのタイミングで、相模原の農園スクールで無農薬野菜の栽培を学び始める。自ら畑を運営する一方で、農園の運営にも関わり経験を深めた。この実績から、相模原の観光農園「Nagatake Farm」の立ち上げにも貢献。この農園では、ブドウ狩りや流しそうめん、バーベキュー、ドッグランなどを展開し、楠野氏は雨水タンクの開発も手がけた。
そんな折、相模原の猟師と出会ったことを機に、有害鳥獣駆除員として狩猟活動を開始。県や市からの要請によって通年で活動を行い、その取り組みは6年に及ぶ。
「食べ物は、野菜でも動物でも生きているもので、私たちは皆、誰かが育てた命をいただいています。長年あらゆる面から”食”に携わってきましたが、特に一次産業は、そうした命の循環を直に知り、食への理解を深めるために欠かせないと考えています。」
野菜の栽培や狩猟活動など、飲食店の運営から離れていた期間も、「いつか自分の店を持ちたい」という思いは楠野氏の心にあり続けた。自身の子どもが独立したタイミングもあり、これまでの経験を活かした店を開業することを決意し、今回の開業に至る。
「人との繋がりが好きだからこそ、そういった交流を育む場を作りたいと考えました。」
居抜き物件を活用した楠野氏の経験とこだわりが詰まった「ジャパニーズパブリックハウス」

「WILD NOTE TABLE」の入り口。
西荻窪駅北口から徒歩6分、昔ながらの和菓子店や喫茶店が並ぶ北銀座通りから一本入った路地に位置する「WILD NOTE TABLE」。窓際にはワインボトルが並び、木のファサードが温かみを醸し出す。ガラスの扉には店名とロゴが描かれている。ロゴは、植物、鹿の角、フォークをイメージした三又の記号、大地を表す水平線、海を表す波線を組み合わせたデザインで、店のコンセプトを象徴している。
楠野氏が出店地に選んだのは、出身地である西荻窪。物件探しにあたっては、特別な条件を設けなかったという。
「これまで多様な業態で経験を積んできたので、広さや立地、家賃などを総合的に考慮して、店のコンセプトを練ろうと考えました。」
こうして偶然見つけたのが、西荻窪駅北口から徒歩6分の場所にあるアイリッシュパブの居抜き物件だ。内見時、物件の雰囲気が店のイメージを大きく膨らませたと振り返る。
「この居抜き物件を見て、パブの雰囲気と日本の食材へのこだわりを融合させた”ジャパニーズパブリックハウス”というコンセプトを思いつきました。鉄筋コンクリート造りの17.5坪の空間なら、本格的な音響機器も設置可能で、独自の雰囲気を演出できると考えました。」
現在、DJの知人の勧めで、「銀箱」と呼ばれるアビー・ロード・スタジオを2台設置。この機器は、1970年代のイギリスの有名ロックバンドも使用したもので、狙い通りの音響効果を実感しているという。

「WILD NOTE TABLE」の店内。
L字カウンターを中心に複数名用のテーブル席を配置し、手前にはスタンディングスペースも設置。エアコン、水道、ガスなど、最低限の設備工事は施しつつ、前テナントの内装を最大限活用した。木の温かみのある空間に、狩猟で得た動物の骨をインテリアとして置き、ジビエ料理店らしい雰囲気を演出している。
ジビエと日本酒、国産スピリッツを打ち出した専門酒場
店のコンセプトは、「ジャパニーズパブリックハウス」。居抜き物件のパブらしい雰囲気を活かしつつ、楠野氏の一次産業での経験をもとに、日本の食を楽しめる空間を目指した。

写真左が「鹿ロースのたたき」(1800円)、右は「前菜盛り合わせ」(時価)で上から「鹿タンのポン酢」「猪ハツのタイ風グリル」「旬野菜のグリル」。
フードの目玉はジビエ料理で、運営の楠野商会が狩猟し、食肉処理を施した新鮮なジビエを提供する。メニューは季節や仕入れ状況によって変動があるが、たとえば取材時には「猪肉のラグーソースのリングイネ」「鹿ロースのたたき」「猪肉のグリル」といったラインナップが並んだ。
このほか、ジャンルに縛られない多国籍料理も魅力だ。「真鯛の昆布〆カルパッチョ」「うなぎのトルティージャ」「まるごとレモンバターのスパゲッティーニ」など、多様な業態を経験してきたからこそ生まれた多彩な料理が楽しめる。
「当初、フードのテーマは”世界のソウルフード”と構想していましたが、現在もブラッシュアップ中で進化させていけたらと思っています。ジビエは、自然の恵みをそのまま味わえるのが魅力。使用する野菜などの食材も、今後、化学肥料などを使わない自然の力を活かしたオーガニックにこだわっていきたいですね。」

まるごとレモンバターのスパゲッティーニ(1600円)
ドリンクの主役は、15種以上揃う日本酒。プレミアムで話題性のある銘柄よりも、手頃ながらも味わい深いラインナップを中心に揃えている。
「たとえば『奥播磨 純米酒山廃』は、陶芸家や料亭経営者として知られる魯山人が提唱したお酒で、ジビエ料理との相性が良いとされています。このようにストーリー性や料理との調和を考えた品揃えも意識しています。」
さらに、生ビール(ハートランド)をはじめ、ワイン、ウイスキー、ウォッカ、ラム、テキーラ、カクテルなどパブらしいラインナップも充実するが、特に日本産にこだわったセレクションが特徴だ。たとえば、福島のクラフトライスウォッカ「ねっかウォッカ」や、京都のクラフトジン「季の美」など、個性豊かな国産クラフトスピリッツを取り入れ、ジャパニーズパブならではの独自性を感じられる構成となっている。
焼酎は10種以上を提供。泡盛名酒会長の酒屋と親交が深いことから、多彩な泡盛を取り揃えている。そのほか、炭酸割りで楽しめる銘柄も充実しており、幅広い飲み方で楽しめるラインナップだ。
(「WILD NOTE TABLE」メニュー例)
・猪肉のラグーソースのリングイネ(2500円)
・鹿ロースのたたき(1800円)
・猪肉のグリル(2200円)
・真鯛の昆布〆カルパッチョ(1300円)
・うなぎのトルティージャ(1600円)
・まるごとレモンバターのスパゲッティーニ(1600円)
(「WILD NOTE TABLE」ドリンク例)
・ハートランド(700円)
・日本酒(七勺800円~、一合1000円~)
・ウイスキー、ワイン、ラム、テキーラ、ウォッカ、リキュール、カクテルなど(700円~)
・焼酎 (600円~)
目標は「外部からも訪れる目的地になる店」
オープンから間もない現在、近隣住民や知人を中心に集客し、その基盤を少しずつ固めている。しかし、その先にはさらなる目標があると楠野氏は語る。
「西荻窪の住民だけでなく、外部からも訪れる目的地になるような店にするのが目標です。」
また、店舗運営に加え、これまで楠野商会が手がけてきた狩猟・食肉加工の事業を発展させ、犬用ジビエジャーキーの販売にも取り組む予定だという。さらに観光農園の運営も継続し、食を軸にした多様な挑戦を続ける楠野氏の今後の展開に注目だ。
■店舗データ
店名 WILD NOTE TABLE
住所 東京都杉並区西荻北3-41-11 1F
アクセス JR西荻窪駅から徒歩6分
電話 03-4361-9059
営業時間 17:00~24:00(LO 23:30)
定休日 月曜
坪数・客席 17.5坪・30席
オープン日 2025年8月23日
関連リンク WILD NOTE TABLE(Instagram)
https://www.instagram.com/wild_note_table/
居抜きの神様では、前店舗の内装や設備をそのまま活用できる「居抜き物件」を多数ご紹介しています。「初期費用を抑えたい」「開業準備を効率化して早くスタートしたい」といったオーナー様にぴったりの物件です。特に東京都の居抜き物件に強く、少人数で運営しやすいコンパクトな「小箱物件」から、多くの客席を確保できる「1棟貸し物件」まで、さまざまな物件を取り扱っています。新規開業はもちろん、2店舗目以降の出店といった事業拡大のご相談にも対応しているため、飲食店の物件をお探しの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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