コンビニなどで安くておいしいコーヒーが手軽に買えるようになった昨今、前にも増して競争が激化しているカフェ業界。そんななかでカフェを成功させるためには、商品力だけでなく、明確なコンセプト戦略が欠かせません。
コンセプトが定まっていないと、他店との差別化ができなかったり、思うように集客できなかったりする可能性があります。そんな失敗を防ぐために、最初にコンセプトを固めておきましょう。
この記事では、開業前に知っておくべきコンセプト設計の基本を解説します。実例も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
カフェのコンセプトが重要な理由
明確なコンセプトを持つことで、メニューや店内の雰囲気、サービスに一貫性が生まれ、店ならではの個性を出すことができます。さらに「どんな人に来てほしい店なのか」「どんな体験ができるのか」が伝わりやすくなることによって、ターゲット層の心に響きやすくなります。
ここでは、カフェのコンセプトが重要な理由を4つの観点から具体的に解説します。
他店と差別化できるため
カフェのコンセプトは、ほかのお店との差別化を図り、個性を際立たせるために重要です。
たとえば「授乳室やキッズスペースのある子連れで楽しめるカフェ」や「ペット同伴可能な癒し系カフェ」などが例として挙げられます。コンセプトにもとづいた明確なテーマがあれば、顧客の記憶に残りやすく、特定のニーズを持った人たちの心に刺さるでしょう。
おしゃれな空間を提供するカフェは多く存在しますが、コンセプトを明確にし、独自の世界観を打ち出すことで「あなたのカフェにしかない価値」が生まれます。
コンセプトは、顧客に提供する体験の軸となります。その軸がしっかりしていれば、店舗のデザインやメニュー、スタッフの接客まで一貫性を持たせることができ、強いブランドとして認識されやすくなるでしょう。
事業計画を立てやすいため
カフェのコンセプトが明確であれば、その後の事業計画がスムーズに進みます。たとえば、立地や内装の決定の際に、コンセプトを軸に考えられるため、方向性がぶれにくくなります。逆に、コンセプトが曖昧なままであれば、計画中に軌道修正が必要になる場合や、それに伴って余計なコストや手間がかかることもあるでしょう。
開業前にしっかりとコンセプトを設計しておくことは、資金計画や融資申請にも大きく関わります。カフェを経営する理由や、ターゲット層を伝えるためにも、コンセプトは明確であることが求められます。
リピーターを増やせるため
コンセプトが明確であれば、ターゲット層に響き、リピーターの獲得につながります。顧客がまた行きたいと思うカフェには、必ずそのカフェ特有の雰囲気があります。その雰囲気こそがコンセプトであり、カフェと顧客をつなぐ重要な要素といえるでしょう。
「健康志向のメニューが豊富」「静かに本が読める空間」「ママ友が集まりやすい雰囲気」など、顧客がカフェのコンセプトに共感すると、カフェに足を運ぶ理由が明確になります。カフェで心地よい体験をすることで、再び来店したいという感情が生まれ、リピーターへとつながります。
カフェのコンセプトに共感したリピーターから、友人や家族へ口コミが広がったり、SNSでの評価が上がったりすることも考えられます。このような流れによって、ファンが増え、安定したカフェ経営が実現します。
地域社会とのつながりを作れるため
カフェは、地域の人々が集うコミュニティの場にもなり得ます。とくに、個人経営のカフェでは、地域とのつながりが売上にも直結する重要な要素になる可能性があります。
たとえば、地元の食材を使ったメニューを提供したり、地域イベントに協賛したりするなど、地域とのつながりを大切にすることで、地域社会からの親しみを感じてもらいやすくなります。
地域に根ざしたコンセプトを設計することで、ほっとひと息つける帰りたい場所として定着できるかもしれません。これが、長期的な成功へとつながります。
カフェのコンセプトの種類
カフェの魅力は、ただ「コーヒーが飲める場所」というだけではありません。雰囲気やコンセプト次第で人の心を動かし、日常の中に特別な時間を提供できます。
ここでは、人気のある5つのカフェコンセプトを紹介します。あなたの理想に近いスタイルをイメージしながら、ぜひ参考にしてみてください。
おしゃれ系
最も定番かつ人気のカフェは、おしゃれ系のカフェです。白や木目を基調としたナチュラルテイストや、洗練されたミニマルデザインなど、思わず写真を撮りたくなるような空間づくりが魅力です。
おしゃれ系カフェはSNS映えもしやすく、とくに女性客を中心に集客しやすいでしょう。照明や小物などのインテリアにこだわることで非日常を演出でき「特別な時間を過ごしたい」と思う顧客のニーズを満たせます。
ただし、競合も多いジャンルであるため、＋αの要素を加えることで差別化を図るとよいでしょう。差別化する際の案としては、ブランチメニューやスイーツにこだわったり、ワークスペースを併設したりすることが挙げられます。
かわいい系
かわいい系のカフェは、テーマ性が強く、記憶に残りやすいのが特徴です。パステルカラーを基調にした内装や、動物やキャラクターを取り入れたメニューなど、来店するだけで楽しい気持ちになれるような世界観を提供できます。
このタイプのカフェは、若い女性やカップルだけでなく、親子連れにも人気があるのが特徴です。そのどちらかにターゲット層を絞ることで、より魅力的なカフェに仕上がるでしょう。
「メルヘンカフェ」「レトロ喫茶風」などテーマを絞りターゲットを明確にすることで、世界観を一貫させやすくなり、リピーター獲得にもつながります。初期投資を抑えつつ、DIYで内装に個性を出せるのも、かわいい系カフェの魅力のひとつです。
アンティーク系
落ち着いた雰囲気で大人の時間を演出するなら、アンティーク系カフェがおすすめです。ヨーロッパ風の家具や照明を取り入れ、クラシック音楽が流れる空間は、訪れる人の心をほっと落ち着かせてくれます。
アンティーク系カフェは、20代後半〜40代の落ち着きのある層や、静かに読書や作業をしたい人に好まれる傾向があります。アンティーク家具はひとつひとつに存在感があり、空間づくりに深みを与えてくれるという特徴も関係しているかもしれません。
中古家具をうまく活用すれば、コストを抑えながら味のある内装を実現可能です。雰囲気重視のカフェを目指すなら、ぜひ検討してみてください。
ユニーク系
よりターゲットを絞ったコンセプトなら、ユニーク系カフェがおすすめです。自分がワクワクする空間を提供したいという気持ちがある人にはぴったりかもしれません。
例として「キャンプをテーマにしたアウトドア風カフェ」「サウナのような個室付きカフェ」など、アイデア次第で無限の可能性があります。ターゲットが明確になりやすく、話題性が高くなりやすいため、メディア露出にもつながる可能性もあります。開業初期から集客を狙いたい人に向いているでしょう。
ラグジュアリー系
高級感のある空間で特別なひとときを提供するなら、ラグジュアリー系カフェがおすすめです。大理石風のテーブルやシックな照明、落ち着いたトーンの内装で統一された空間は、非日常の上質な体験を求める大人たちの心をつかみます。
立地によっては、アッパーミドル層だけでなく、ミーティングに利用するビジネスパーソンもターゲット層に加わるかもしれません。
ラグジュアリー系カフェは、単価を高めに設定しやすいため、客数を絞っても利益を出しやすいのがメリットです。ゆったりとした時間を大切にする顧客から支持を集められるようにしましょう。
立地やインテリアにこだわる必要があるため、開業資金はやや高めになる傾向がありますが、居抜き物件を活用すれば、内装費を大幅に抑えつつ、上質な空間を演出することも可能です。
カフェのコンセプトの考え方
カフェの開業において、コンセプト設計は夢を現実に変えるための地図のような存在です。理想のカフェ像を思い描くだけでは、具体的な行動には移せません。「誰のために」「どんな体験を」「どうやって提供するのか」などの要素をひとつずつ明確にすることで、実現可能なビジネスの形が明確になります。
ここでは、カフェのコンセプトを設計する際に欠かせない8つの視点をご紹介します。あなたの理想と現実がしっかりと結びつき、開業に向けて自信を持って進められるステップとなります。
1.Style：店舗のスタイル
初めにカフェ全体の「スタイル＝雰囲気・世界観」を決めましょう。ナチュラルテイストで落ち着いた雰囲気にしたいのか、ポップで遊び心のある空間にしたいのかによって、内装やインテリア、BGMなどが大きく変わります。
カフェのスタイルは、顧客にとっての第一印象となるため、非常に重要な要素です。スタイルを明確にすることで、物件選びや什器の購入もスムーズになり、SNSに投稿された写真からもあなたのカフェらしさが伝わりやすくなるでしょう。
無機質なコンクリート打ちっぱなしの内装と、木の温もりを感じる北欧風の空間とでは、集まる顧客の層も、居心地の感じ方もまったく異なるでしょう。自分自身が「こんな空間だったら、毎日でも通いたい」と思える雰囲気づくりが大切です。
2.Who：ターゲット設定
「どのような人に来てほしいか」を明確にしましょう。ターゲットが曖昧だと、メニューや価格設定、接客スタイルまでブレてしまい、結果として誰にも刺さらないカフェになってしまうリスクがあります。
たとえば「20代女性のインスタ好き」「仕事帰りに立ち寄りたい会社員」「子育て中のママ友同士」など、具体的な人物像をイメージしてみましょう。イメージすることにより、ターゲット層がどんな空間を好み、どんなニーズを持っているかが明確になります。
3.Why：来店動機
顧客は、何かの目的があってカフェに足を運ぶでしょう。「美味しいコーヒーを飲みたい」「友人と話したい」「仕事に集中したい」「癒されたい」など、来店理由はさまざまです。
あなたのカフェが提供する体験が、ターゲットの動機と合致すれば、強い共感が生まれます。たとえば「本を読みながら静かに過ごせる空間を求める人」に対して、落ち着いた照明とゆったりしたソファ席、ドリンクのおかわり制度を用意するなどが例としてあげられます。来店目的に合致するような設計を意識しましょう。
また、複数の来店動機が重なることも多いため、主たる目的とは別に、副次的な目的を意識するのもポイントです。たとえば「集中して作業がしたい」が主目的であっても、美味しいドリンクが飲みたい、店員さんと軽く会話したいなど、＋αのニーズが満たされることで、総合的な満足度が高まり、自然にリピーターへとつながります。
4.Where：店舗の立地
理想のカフェを形にするには、立地も極めて重要です。駅からの距離や、住宅街にあるのか、オフィス街にあるのかなど、立地によって想定される客層やニーズが大きく変わります。店舗面積や家賃も立地に大きく左右されるため、予算とのバランスも考慮する必要があるでしょう。
コンセプトに合った立地を選ぶことは、開業後の集客に直結します。たとえば、「仕事帰りの大人が静かに過ごせるカフェ」であればオフィス街「子ども連れで通いやすいカフェ」であれば住宅街や駅近の1階物件が好ましいです。
5.What：提供メニュー
コンセプトに合ったメニューは、店舗の世界観をさらに深める大切な要素です。コーヒーやスイーツはもちろん、ブランチ、ベジタリアン対応、地元食材を使ったフードメニューなど、メニューの選定一つでカフェの印象は大きく変わります。
たとえば「健康志向の女性」がターゲットであれば、グルテンフリーのスイーツや低糖質のランチメニューを考えると喜ばれます。「子ども連れのファミリー」がターゲットであれば、キッズメニューを豊富にすることで人気を得られるでしょう。
また、季節感を取り入れたメニューはリピーターの来店動機にもつながります。ターゲット層が求めるものは何かを念頭に置き、提供する内容を考えてみましょう。
6.When：営業時間
見落とされやすい点として、営業時間や定休日が挙げられます。カフェのコンセプトに影響を与える大事なポイントです。
たとえば、出勤前に立ち寄るビジネスパーソン向けなら朝6時や7時開店が立ち寄りやすいでしょう。夜のリラックスタイムに利用する大人向けであれば、夜遅くまでの営業も検討できます。
届けたい体験に最適な時間帯を設定することで、ターゲットのライフスタイルとぴったり合うカフェに近づきます。営業時間は、スタッフの確保や自分自身の生活リズムにも関わるため、無理のない計画を立てることも大切です。
7.How：経営スタイル
カフェをどのような体制で運営していくかも、コンセプト設計と深く関係しています。こじんまりとしたカフェなのか、今後拡大を目指すのかによっても経営スタイルは変わるため、方針を検討しましょう。
- 一人で切り盛りするのか
- 夫婦やパートナーと運営するのか
- スタッフを雇って拡大を目指すのか
顧客と会話を楽しみながら接客したいのであれば、オーナーが接客に立ちスタッフが少ない方が合うでしょう。複数店舗を展開したいのであれば、マネジメントを意識した体制づくりが必要です。
人員の配置だけでなく、提供に関するスタイルも考える必要があるでしょう。テイクアウトにするか、注文を受けて配膳するスタイルにするかなども検討しておきましょう。
8.How much：価格設定
最後に「価格」を考える必要があります。単価の設定によって、顧客の層や提供する体験の質まで変わってきます。サービスと価格が合っていないと顧客離れにつながる可能性もあります。
気軽に立ち寄れるカフェであればリーズナブルな価格が適しているでしょう。特別な時間を提供するカフェであれば、ある程度高単価でも違和感はありません。
大切なのは、その価格に見合った体験価値を提供できているかどうかです。地域の相場や競合店の価格帯もリサーチし、あなたの店舗のポジショニングを考えることが重要です。
価格帯を決める際は、競合との差別化ポイントも合わせて考えると効果的です。たとえば、近隣に低価格チェーン店があるエリアであれば、単純な価格勝負は避け「ゆっくり過ごせる空間」や「素材へのこだわり」「丁寧な接客」など、付加価値を明確に伝えましょう。
逆に、価格が安すぎると「安かろう悪かろう」と誤解されるリスクもあるため、あなたの世界観を守るためにも、自信をもって価格を設定する姿勢が大切です。
コンセプトを考える際のポイント
理想のカフェ像を実現するためには、さらに一歩踏み込んで考え方のコツを押さえる必要があります。
ここでは、開業を目指す方がつまずきやすいポイントと、それを乗り越えるためのヒントを4つご紹介します。実際にあなた好みのカフェを思い浮かべながら、確認してみてください。
他店のコンセプトを参考にする
ゼロから自分だけのアイデアをひねり出すのは、簡単なことではありません。まずは、あなたの理想に近いカフェや、気になるお店をいくつかピックアップし、自分の心を惹きつけたものが何かを分析してみましょう。
- おしゃれな内装
- 手書きメニューの温かみ
- BGMの選び方
- 接客の距離感
こういった要素を分解し、自分の価値観と照らし合わせることで、オリジナルコンセプトのヒントが得られます。他店のコンセプトを参考に、自分なりの切り口を加えていくことが重要です。
こだわりを追求する
カフェ業界は競合が多いため、ぼんやりしたコンセプトでは埋もれてしまいます。そこで必要となるのが、ほかのカフェとは異なる独自のこだわりや魅力を追求することです。
- 自家焙煎の豆にこだわる
- 椅子の座り心地にこだわる
- 地域食材を取り入れる
- 他店とは違うインテリアを取り入れる
こうした強いこだわりは、顧客にとっての記憶に残る体験になります。これまでにカフェを訪れた経験から、自分が感じた「また行きたいと思えた理由」を振り返ることで、それを自分のこだわりに転換できるでしょう。
顧客にコンセプトをアピールする
どれだけ魅力的なコンセプトを考えても、伝わらなければ意味がありません。コンセプトは、顧客に伝えることまでをセットにしましょう。
コンセプトが伝わるキャッチコピーを考えるのも効果的です。カフェのSNSやメニュー表などにキャッチコピーを掲載することで、コンセプトをアピールし、顧客にカフェの魅力を届けやすくなります。
- 店内の案内POPやメニュー表にコンセプトやキャッチコピーを記載する
- SNSで開業準備のストーリーを発信する
- ホームページや看板にキャッチコピーを記載する
これにより、初めて来店する顧客にも安心感や共感を与えられ「なんとなく来た人」が「また来たい顧客」へと変わっていきます。
実現可能かどうか見極める
最後に、事前に確認しておきたいのが、コンセプトの実現性です。夢が膨らむ一方で、理想を追いすぎると、現実的に運営が難しくなるケースもあります。だからこそ、事業計画や収支のバランスを考えつつ、実行できるかどうかを冷静に判断しましょう。
- 内装にかかる費用が想定以上になっていないか
- 立地とターゲットがマッチしているか
- 自分ひとりでも無理なく回せる規模か
無理して理想を追い求めた結果、夢が崩れてしまうことがあります。実現可能性を見極めることで、夢が続くカフェ経営が実現できるでしょう。
まとめ
カフェ開業において、コンセプトは「夢をカタチにするための設計図」です。なんとなくオシャレな雰囲気のいいお店を目指すのではなく、「誰に・何を・どう届けるか」を明確にすることで、あなた自身も、顧客も、そして地域の人々も幸せにできるカフェが実現します。
これから新たなステージへ踏み出す方にとって、開業準備はワクワクと不安が入り混じる時間かもしれません。夢を現実に近づけるためには、初期コストや工期の負担を減らす工夫も大切です。
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