居酒屋の経営を始めるにあたって、最も重要な指標のひとつが原価率です。適切な原価率を維持することで、売上の成長がそのまま利益の増加につながり、安定した経営基盤を築くことができます。
この記事では、居酒屋の原価率の実態と、ほかの業態との比較、そして原価率を効果的に管理する方法について、詳しく解説していきます。
居酒屋の原価率の平均

帝国データバンクが実施した「主要外食100社 価格改定動向調査」によると、2021年度の居酒屋の平均原価率は35.9%でした。前年度と比較すると1.7ポイントの増加となっており、輸入食材の価格上昇が主な要因とされています。
飲食業界では長年、原価率30%が理想的な目安とされてきました。これは売上高に対して、以下のような配分を前提にしたものです。
- 原価30%
- 人件費30%
- 家賃10%
- 光熱費8%
- その他経費12%
- 利益10%
しかし現実の居酒屋経営では、この30%という数字だけでは不十分です。昨今の食材価格は変動が激しく、突発的な値上げが頻繁に起こっているためです。
「ある食材が一夜にして20%も値上がりする」といった事態も珍しくありません。30%ギリギリで設定していると、こうした突然の食材値上げに対応できず、すぐに赤字に転落してしまうリスクがあるのです。
そのため、現在の居酒屋業界では原価率27%程度を目標にすることが推奨されています。
27%程度に設定しておけば、3%程度のバッファを持つことができることから、急な価格変動にもある程度耐えられる経営体制を築けるでしょう。
原価率が高いフード・ドリンク
居酒屋のメニューの中でも、とくに原価率が高くなりがちなものがあります。
刺身の盛り合わせは居酒屋の定番メニューですが、原価率は50%を超えることも珍しくありません。これは鮮魚の仕入れ値が高く、さらに日持ちしないため廃棄リスクも高いことが理由です。
生ビールも原価率が約40%と高めです。「ビール180円」といった激安価格で提供している居酒屋を見かけますが、これはほぼ原価で提供していることになります。このような価格設定は集客のための目玉商品として戦略的に行われているもので、ほかのメニューで利益を確保する必要があります。
その他、牛肉料理、活魚料理、高級食材を使った一品料理なども原価率が高めです。これらは顧客満足度が高く、店の看板メニューになり得る一方で、原価管理には細心の注意が必要です。
原価率が低いフード・ドリンク
一方で、原価率を大きく抑えられるメニューも存在します。
ドリンクメニューでは、サワーとハイボールの原価率が極めて低く、約10%程度に抑えることができます。1杯あたりの原価は30円から50円程度で、300円から400円で提供すれば、非常に高い利益率を実現できます。
フードメニューでは、以下のような定番のおつまみが原価率の低いメニューです。
【原価率の低いフードメニュー】
- 冷奴
- ポテトサラダ
- 枝豆
- キャベツの浅漬け
これらは食材費が安く、調理時間も短いため、効率的な売上源となります。原価率は20%から25%程度に抑えられることが多いです。
重要なのは、高原価率のメニューと低原価率のメニューをバランスよく配置し、全体として27%程度の原価率を維持することです。
居酒屋以外の原価率
居酒屋の原価率を正しく理解するためには、他業態との比較が役立ちます。
喫茶店
喫茶店の原価率は、2021年度の平均で36.9%でした。これは過去20年間で最も高い数値となっています。主な要因は、輸入コーヒー豆の価格変動の影響です。
コーヒー豆は主にブラジル、ベトナム、コロンビアから輸入されており、産地の天候や為替相場によって価格が大きく変動します。
ただし、喫茶店の強みはドリンク率の高さにあります。一般的にメニュー構成はフード15%、ドリンク85%程度となっており、コーヒー1杯あたりの原価率は約10%程度に抑えられます。ドリンクメニューが中心であれば、全体として20〜30%の中で原価率をコントロールしやすい業態といえます。
レストラン
レストランの2021年度平均原価率は39.6%で、前年度比3.6ポイント増と大幅な上昇を記録しました。これは輸入食材の価格高騰に加え、テイクアウトに注力する店舗が増えたことで包装材のコストが上昇したことが影響しています。
レストランはフードメニューが中心となるため、一品ごとの食材費や調理工数が増えやすい特性があります。そのため、原価の高い看板メニューと、原価の低いサイドメニューやドリンクを戦略的に組み合わせることが重要です。
また、調理技術やサービスの質が求められるため、人件費率も高くなります。原価率と人件費率を合わせたFLコストをしっかり管理することが、安定した経営の鍵となります。
そば・うどん・ラーメン店
そば・うどん店の2021年度平均原価率は36.9%です。麺類を主力とする業態は、比較的原価率をコントロールしやすいのが特徴です。
ラーメン店の原価率は30〜35%前後とされています。麺の原価は1杯あたり140円程度が目安で、スープの原価は鶏ガラ醤油、とんこつ、魚介スープなど、種類によって60〜280円程となる傾向があります。
そば・うどん店の場合、回転率が重要な収益ポイントになります。客単価はそれほど高くなくても、回転率を上げることで売上を確保できるビジネスモデルです。
大衆食堂
大衆食堂の2021年度平均原価率は44.4%と、飲食業態の中でもとくに高い数値となっています。これは安価なメニューを多く提供する業態特性によるものです。
大衆食堂は「安くてボリュームがある」ことを売りにしているため、メニュー価格を抑える必要があります。その結果、原価率が高くなりやすいのです。
この業態で利益を確保するには、仕入れの工夫が不可欠です。業務用食材を大量に仕入れることでコストを抑えたり、日替わりメニューで余剰食材を有効活用したりするなど、細やかな原価管理が求められます。
居酒屋の原価率を下げる方法

原価率の目安がわかったところで、実践的な原価率管理の方法を見ていきましょう。
ロスを減らす
フードロスの削減は、原価率改善に最も直接的に効果を発揮する施策です。フードロスとは、本来食べられるにもかかわらず廃棄される食品のことを指します。
居酒屋では、仕込みすぎた料理、賞味期限切れの食材、調理ミスによる廃棄など、さまざまな場面でロスが発生します。これらのロスは売上に貢献しないにもかかわらず、仕入れ原価には含まれるため、計画していた原価率を大きく悪化させます。
ロス率は「ロス金額÷売上高×100」で計算できます。このロス率を定期的にチェックし、どのメニューで、どのような理由でロスが発生しているのかを把握しましょう。
ロスを減らすには、需要予測の精度を高めることが重要です。過去のデータを分析し、曜日や天候、イベントなどによる来客数の変動パターンを把握することで、適切な仕込み量を判断できます。
また、賞味期限の管理を徹底し、先入れ先出しのルールを守ることで、期限切れによる廃棄を防げます。
オーバーポーションを解消する
オーバーポーションとは、規定量以上の食材を盛り付けてしまうことを指します。これは原価率を上げる大きな要因のひとつです。
スタッフが「お客様に喜んでもらいたい」という善意から、つい多めに盛り付けてしまうケースは少なくありません。しかし、1品あたり10%の食材を多く使えば、原価率も10%上昇してしまいます。
オーバーポーションを防ぐには、各メニューの標準レシピを明確に定めることが必要です。使用する食材の種類と量を正確に決め、写真付きのレシピカードを作成しましょう。
また、デジタルスケールや計量カップを使って正確に計測する習慣をつけることで、オーバーポーションを防止できます。
メニューを見直す
メニュー構成の見直しは、原価率管理の戦略的なアプローチです。高原価率のメニューと低原価率のメニューのバランスを最適化することで、全体の原価率を理想的な水準に近づけられます。
まず、現在提供しているすべてのメニューの原価率を正確に計算しましょう。食材費、調味料、付け合わせなど、すべてのコストを含めた原価を算出します。
高原価率のメニューについては、少量サイズのメニューを追加して選択肢を増やす方法があります。「刺身3点盛り」と「刺身5点盛り」のように、価格帯の異なるバリエーションを用意することで、顧客の予算に合わせた選択を促せます。
また、原価の高いメニューを看板商品として活用し、低原価率のメニューとのセット販売を推進する戦略も効果的です。
仕入れ先を見直す
仕入れ価格は原価率に直接影響を与える重要な要素です。定期的に仕入れ先を見直し、より有利な条件で食材を調達することで、原価率を大幅に改善できる可能性があります。
仕入れ先にはさまざまな選択肢があります。たとえば、卸売業者や生産者との直接取引、業務用スーパー、通販サイトなど、それぞれに特徴があります。各仕入れ先の特徴を以下の表にまとめました。
| 仕入れ先 | 特徴 | メリット | デメリット |
| 卸売業者 | 品ぞろえが豊富で、定期的な配送に対応 | 便利で安定的な供給が可能 | 一部商品が高価な場合がある |
| 生産者との直接取引 | 仲介マージンがかからない | 食材を安価で調達できる | 取引条件や契約内容の調整が必要 |
| 業務用スーパー | 必要なタイミングで手軽に購入可能 | 商品をすぐに手に入れることができる | 品質や在庫にばらつきがある場合がある |
大切なのは、複数の仕入れ先を比較し、食材ごとに最適な調達先を選ぶことです。同じ食材でも仕入れ先によって価格が異なるため、定期的に相見積もりを取ることをおすすめします。
在庫管理を徹底する
在庫管理はロス削減にとって欠かせない要素であり、適切な管理を行うことで原価率の改善が期待できます。効率的な在庫管理を実現するために、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 定期的な棚卸し:週に1回、少なくとも月に1回は在庫の確認を行い、現在の食材量を正確に把握する。
- 適正在庫量の設定:各食材の使用量を過去のデータから算出し、発注量を調整して過剰発注を防ぐ。
- 先入れ・先出しの徹底:新しい食材は奥に、古い食材は手前に配置し、賞味期限が近いものから使用する。
- システムの活用:在庫管理システムやPOSシステムを導入し、リアルタイムで在庫状況を把握することで、発注ミスや在庫切れを防ぐ。
これらの取り組みを実践することで、無駄な在庫やロスを減らし、原価率の改善を実現できます。
こちらの記事では、居酒屋の開業について解説しています。
開業の手順や必要な備品・資格も取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。

まとめ

居酒屋の原価率は業界平均で35.9%ですが、実際には27%程度を目指すのが理想的です。高原価率のメニューと低原価率のメニューをうまく組み合わせることはもちろん、フードロス削減などの取り組みも同時に進めることで、理想的な原価率を実現できます。
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