多くの居酒屋で提供されている「生中」は、定番メニューとして人気があります。しかし、その容量に明確な基準が存在するかは、十分に認識されていない方が多いのではないでしょうか。
居酒屋によって提供される容量は異なり、顧客の期待に応えるためにはどの容量が最適かを理解することが大切です。本記事では、生中の一般的な量や売上に与える影響、価格設定のポイントについて解説します。
生中の一般的な量
以下では、生中の一般的な量について、ジョッキの特性やメーカーの影響などを交えながら解説します。
ジョッキの容量に厳密な基準値はない
生中の容量は店舗ごとに若干の違いがあり、法的規制や業界の共通規定によって統一されているわけではありません。そのため、同じ「生中」という名称であっても、提供される量には差異が生じます。
中ジョッキは250ml程度の小ぶりなものから、330〜500ml程度の容量を持つものまで幅広い選択肢があり、どのサイズを選ぶかはお店の判断に委ねられています。
メーカーによってジョッキのサイズも異なる
生中の量に影響を与えるひとつの要素は「メーカー提供のジョッキ」です。多くの居酒屋では、ビールメーカーのロゴや名前が入ったジョッキを使用しています。
これらのジョッキは各メーカーが独自に提供しており、デザインや容量が異なります。たとえば、A社のジョッキは容量が350mlである一方で、B社のジョッキは400ml以上の容量になることもあります。そのため、居酒屋で提供される生中の量にも違いが生じます。
また、居酒屋によって仕入れているビールのブランドが異なるため、提供されるジョッキの種類や容量にも影響を与えます。
こちらの記事では、ジョッキの容量について解説しています。おいしく注ぐためのポイントも取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
生中の量や価格はお店の売上に影響する
居酒屋の定番メニューである「生中ジョッキ」の量や価格の設定は、店舗の売上に影響しやすい非常に重要な要素です。適切な価格率設定を行えば利益の最大化を可能にし、顧客の満足度を高められます。以下では、生ビールの原価や価格について解説します。
生ビールの原価率
一般的に、生ビールの原価率は30〜40%程度とされています。この範囲内に収めることで、適度な利益を確保しながらも顧客にとってのコストパフォーマンスを高めることが可能です。原価率の計算式は以下の通りです。
原価率(%)=(売上原価÷売上高)×100
ただし、店舗の立地やコンセプト、ターゲット層によって異なる場合があります。重要なのは単純に利益率を追求するのではなく、価格と満足度のバランスを意識することです。
値段を高く設定しすぎると、客数の減少やリピート率の低下につながるリスクがあるため、適切な価格設定が求められます。
容量と値段の目安は近隣エリアを参考に
生中の価格を設定する際、近隣エリアの競合店が設定している価格を参考にすることがポイントです。同じエリア内で大きく離れた価格設定を行うと、顧客の不信感を招く可能性があります。
たとえば、隣の居酒屋で350mlの生中ジョッキを400円で提供しているのに対し、自店で330mlのジョッキを500円で提供してしまうと、価格が高く感じられてしまい集客に影響する可能性があります。
また、提供するビールの量も重要です。価格設定と同様に、同じ生中でも近隣店舗とは明らかに少ない量で提供されていると「損をしている」と顧客が感じるリスクがあります。
近隣の店舗と価格や量のバランスを比較しながら、ターゲットに応じた価格設定を行うことが必要です。
日本の飲食店は価格設定の自由度が高い
国によっては、ジョッキに注ぐビールの量が法律によって定められており、規定量を下回ると罰せられることもあります。
ビール大国のドイツでは「ビール純粋令」と呼ばれる法律が存在するほど厳格で、メニューには容量の記載が必要とされ、グラスには規定量を表すメモリがついています。こうした規定量があると、同じ商品を提供している他店との価格が比較しやすくなるため、店舗ごとの価格差も出にくくなるといえます。
一方で、日本は量を自由に設定できるため、店舗ごとに個性を発揮しやすい環境が整っています。飲食店は独自のルールや戦略にもとづいて運営しやすく、生中の価格における売上への影響力も大きくなります。
こちらの記事では、居酒屋の売上平均について解説しています。売上管理に必要な知識や繁盛店の特徴も取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
生樽の容量による生中の杯数と売上
生樽の容量は飲食店の経営において重要な要素です。一般的に、生樽は7L、10L、15L、20Lといった幅広い容量から選べ、容量によって1樽あたりに取れる杯数や、1杯あたりの原価が異なります。
以下では、それぞれの容量によるビールの杯数や売上について詳しく解説します。なお、生中1杯の容量は400mlと仮定し、ビールのみの原価をもとに計算します。
7L
7Lの生樽では、約17.5杯の生中が提供できます。樽の価格はメーカーや種類によっても異なりますが、1樽6,000円と仮定した場合、1杯あたりの原価は約340円です。
一般的な原価率を考慮し30%で設定した場合、1杯の価格は340円÷30%×100=約1130円となります。
10L
10Lの生樽では、約25杯の生中が提供できます。1樽あたり7,000円と仮定した場合、1杯あたりの原価は約280円です。原価率30%で設定すると、1杯の価格は280円÷30%×100=約930円です。
10Lの生樽は、7Lと比較すると1杯当たりの原価が下がります。原価が下がる分、7Lの樽よりも利益が出るため、売上の向上が見込めます。
15L
15Lの生樽では、約37.5杯の生中が提供できます。1樽あたり8,000円と仮定した場合、1杯あたりの原価は約210円です。原価率30%で設定すると、1杯の価格は210円÷30%×100=約700円です。
容量の多い樽を選ぶことで原価は下がりますが、消費し終えるまでの杯数が増えるため、在庫管理の難易度が上がるでしょう。日本の大手ビールメーカーの樽は、賞味期限が9ヵ月程度で設けられていることが一般的です。開封後は、賞味期限にかかわらず2〜3日で消費することが望まれます。
時間が経てばその分鮮度が落ちていくため、開封した直後と3日目では、味も風味も変わります。ビールの味を落とさないよう安定したクオリティで提供するには、開封後の樽をできるだけ早く消費する必要があります。
20L
20Lの生樽では、約50杯の生中が提供できます。1樽あたり10,000円と仮定した場合、1杯あたりの原価は約200円です。原価率30%で設定すると、1杯の価格は200円÷30%×100=約660円です。
ビールの提供数は売上にも直接影響します。容量が大きくなるごとに提供杯数も増え、結果として売上は増加しますが、そもそもビールの注文が入らなければロスとなります。そのため、店舗の規模やビールの需要に合った容量選びが欠かせません。
容量変更は顧客に不満を与えないように
飲食店の経営において、容器や商品内容の変更には慎重な判断が求められます。とくに、容量変更や容器の形状を変える場合、顧客への影響を最小限に抑えることが求められます。
顧客は、サービスや商品に対して一定の期待を抱いており、その期待を裏切るような変更は、信頼を損なう原因になることがあります。以下では、容器の形状や内容量を変更する際のポイントを解説します。
容器の形状は変えない
容器の形状は、安易に変更しないことをおすすめします。容器は商品の重要な要素のひとつであり、とくに常連のお客さまは、その形状やデザインを記憶していることがほとんどです。
ビールを提供するジョッキやカップの形状が変わると、すぐにその違いに気づき、違和感を覚える可能性があります。頻繁な変更はさらにリスクをともないます。
ただし、業態やメニューの特性に応じて、容器の形状を変更せざるを得ない場面もあるでしょう。その際は、変更を目立たせないように行うことが重要です。
減らす量は最小限に留める
商品内容の変更で、もっとも顧客が敏感に反応するのが、内容量の減少を告知なく行うことです。このようなことを「ステルス値上げ」といいます。
ステルス値上げは、価格やパッケージはそのままで、中身の量だけを減らす手法を指します。以前と同じ価格にも関わらず、提供される商品の内容量が明らかに少なくなっていると感じられると、顧客は「値段はそのままなのに量が減った」と気づき、店舗に対する不信感を抱く可能性があるでしょう。
そのため、内容量の変更を行う際には、減らす量を最小限に抑えることが重要です。飲食店で提供する料理の量を減らしたり、ビールの提供サイズをわずかに縮小したりするなど、減少を顧客に気づかれないようにする工夫が求められます。
あからさまな量の減少は避け、顧客に違和感を与えない範囲で調整することが、信頼を維持するための重要なポイントです。
また、どうしても内容量を減らさなければならない場合、その理由を明確に伝えることも大切です。ステルス値上げが顧客の信頼を損なう最たる理由は「顧客に不利益な行いを無言で実施されること」にほかなりません。
原材料の価格上昇や仕入れの難しさ、経済的な理由など、背景を真摯に説明することで、顧客は「店舗側が苦しい状況にある」と理解しやすくなり、信頼感を持ってくれるでしょう。
最終手段は生中を廃止する
どうしても容量変更が難しい場合、思い切って「生中」というカテゴリそのものを廃止するという選択肢もあります。その際は、代替となる商品を用意し、顧客にとっての魅力を損なわないように工夫しましょう。
たとえば「生小」や「生大」のみを残して提供量を明確にし、新たに「クラフトビール」や「限定ビール」などの特別なメニューを追加することで、顧客の興味を引き続けることが可能です。
また、提供量を変更する代わりに、ビールとおつまみをセットにしたお得なプランを提案するのもひとつの方法です。
生中をなるべく安く提供するために
運営コストや原材料費が上昇している昨今では、価格を維持するための工夫が求められます。以下では、生中を安く、あるいは現状の提供価格を維持しつつ利益を出すための具体的なポイントを解説します。
その他のお酒や料理で原価回収
生中を低価格で提供するには、利益率が高いほかの商品で原価を回収する戦略が有効です。カクテルや焼酎などの原価率が低い飲み物、あるいは簡単に調理できる軽食やおつまみメニューを活用しましょう。
とくに、料理の原価は工夫次第で比較的低くできるため、利益率を高く設定できます。ビールやそのほかの飲み物の価格を低く設定し、料理の価格を高く設定することで原価の回収が可能です。
また、季節限定メニューや特別感のあるメニューなどを用意し、顧客の注文意欲を高めながら全体の売上を底上げするといった工夫も重要です。
飲食だけの利益でなく「1人獲得単価」で考える
生中の価格を安く提供する場合、飲食単体での利益だけを追求するのではなく「1人獲得単価」を意識することが重要です。
1人獲得単価とは、顧客1人あたりの獲得にかかる費用のことです。多くの飲食店では、集客力を高めるために、さまざまな広告や予約サイトに費用をかけています。こうした販促ツールをどれだけ利用するかによって、1人獲得単価が変わります。
なかには、販促ツールを使わずに自店の商品の一部を安く打ち出すことによって話題性をつくり、集客につなげている飲食店もあります。
たとえば、店先に「生ビール190円」と打ち出した看板を設置して集客している店の場合、1人獲得単価は0円です。看板をみて来店した顧客が別の顧客を連れてリピーターとして来店し、さらに顧客が増えていったとすると、販促ツールを利用した場合と比べて大幅な費用の削減ができます。
長期的な視点でみると、商品の価格が低く設定されていたとしても、トータルの利益率を維持することは可能です。そのためには、店舗の雰囲気やサービスの質を向上させ、顧客が「また来たい」と感じる空間づくりも大切です。
洗浄によるビールの無駄を防ぐ
ビールサーバーは毎日洗浄する必要があり、正しい方法で行うことが大切です。サーバーを放置すると、1晩で雑菌が増えやすく、衛生面で問題が生じます。また、洗浄方法を間違えると、2〜3Lのビールが無駄になることがあり、その分提供価格に影響を与えます。
そのため、衛生管理をしっかり行わないと、ビールの品質だけでなく、最終的に原価にも影響が出ます。ビールをなるべく安く提供するためには、洗浄をコストの一部として考え、適切な洗浄と衛生管理を徹底しましょう。
飲食店の初期費用を抑える
開業時の初期費用を抑えることも、生中を安く抑えることにつながります。融資などを受けて飲食店を開業した場合、店舗を運営しながら返済していくことになります。ランニングコストと返済をあわせた支出が生まれるため、支出額によっては商品の価格設定に直結します。
初期費用を抑えるには、居抜き物件の活用がおすすめです。居抜き物件は、前の店舗が使用していた設備や内装がそのまま残されている物件で、新たに工事を行う必要がなく、費用を抑えて運転資金に余裕を持たせることが可能です。
ただし、費用を最大限削減するには、希望する内装や設備と一致する物件を見つける必要があるため、より多くの居抜き物件を調べることが大切です。
こちらの記事では、居酒屋の開業について解説しています。費用や手順、成功させるポイントなども取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
まとめ
生中の提供量や価格設定は、居酒屋経営における重要なポイントです。一般的な中ジョッキの容量は330〜500ml程度とされていますが、厳密な基準がないため、店舗ごとに提供量や価格が異なります。適切な価格と量の維持は、顧客満足度を高め、売上向上につながります。
また、生中をなるべく安く提供するためには、原価率が低いメニューの価格設定も考慮し、店舗全体の利益バランスを取ることが大切です。
さらに、居抜き物件の活用で初期費用を抑えることも重要です。既存の設備や内装を活かせる居抜き物件を選ぶことで、開業コストを削減し、ビール価格の維持がしやすくなります。
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