一人で飲食店開業したいと考えながらも、開業にはどんな資格が必要なのか、何から準備すればいいのか分からず、一歩踏み出す勇気が出ないという方もいるのではないでしょうか。
一人で飲食店開業するために必要な資格はいくつかありますが、どれもあらかじめ準備しておけば、比較的簡単に取得・申請が可能です。本記事では、飲食店開業に必要な資格や、一人で飲食店を開業するメリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
一人で飲食店開業するのに必要な資格
飲食店の開業に必要な資格・申請は、以下の3つです。
- 営業許可申請
- 食品衛生責任者
- 防火管理者
調理師免許の取得が必要だと考える方もいますが、開業には必須ではありません。調理師免許は、調理や栄養、衛生に関する専門的な知識やスキルを持っていることが証明できる資格です。持っておいて損をすることはありませんが、飲食店を開業するうえで取得が義務付けられているものではないのです。
ここでは、必ず取得しておかなければならない3つの各資格・申請について、詳しく解説します。
営業許可申請
飲食店の開業時に必ず行わなければならない申請として、まず営業許可申請が挙げられます。カフェ、レストラン、食堂などの飲食店のほか、食品を製造・加工販売する工場などの開業時にも、この営業許可申請が必要です。
営業許可の申請先は、所在地を担当する保健所です。都道府県や自治体によって申請方法が異なることもありますが、主には保健所に事前相談し、申請書を提出、施設検査、営業許可書の交付という流れになります。
また、営業許可申請には手数料がかかります。手数料は都道府県や自治体、業種によって異なっています。
【飲食店営業の場合】
新規 | 継続(更新) | |
---|---|---|
新宿区 | 18,300円 | 8,900円 |
大阪市 | 16,000円 | 12,800円 |
名古屋市 | 16,000円 | 12,000円 |
さらに、営業許可申請時には、食品衛生管理者の資格を持つ人が必要です。食品衛生管理者の資格については、次項で解説します。
食品衛生責任者
飲食店では、食品衛生法第51条により、専任の食品衛生責任者を置かなければならないと定められています。また、食品衛生責任者になるためには、以下のいずれかの条件に該当する必要があります。
- 栄養士、調理師、製菓衛生師、食鳥処理衛生管理者、と畜場法に規定する衛生管理責任者若しくは作業衛生責任者、船舶料理士、食品衛生管理者(注1)の有資格者。
- 都道府県知事等が行う食品衛生責任者になるための講習会または都道府県知事等が適正と認める講習会の受講修了者。
引用元:一般社団法人東京都食品衛生協会「食品衛生責任者について」
すなわち、都道府県知事の登録を受けた講習会の課程修了者であれば、資格取得が可能です。この講習会はどなたでも受講できるうえに、1日で終了します。さらに、医師や調理師などの専門的な資格・免許を持っていれば講習免除となります。
食品衛生管理者の受講料は、都道府県や自治体によって以下のように異なります。
【食品衛生管理者・受講料】
集合型 | eラーニング | |
---|---|---|
東京都 | 12,000円 | 12,000円 |
大阪府 | 10,500円 | 10,500円 |
名古屋市 | 6,000円 | 10,000円 |
防火管理者
収容人数が30人を超える規模の店舗を開業するのであれば、防火管理者の資格も取得しなければなりません。この人数は、経営者とお客様すべてを含めた人数です。
防火管理者には乙種・甲種がありますが、どちらも各都道府県の日本防火・防災協会が主催する講習会に参加し、取得できます。講習会の実施日程は、日本防火・防災協会の公式サイトから確認でき、サイトから申込も可能です。
また、防火管理者の資格取得の講習も10,000円前後の費用がかかります。
防火管理者に関しては、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
一人で開業することのメリット
一人で飲食店を開業することには、いくつかのメリットがあります。主なメリットは、以下の3つです。
- 初期費用が抑えられる
- 雇用手続きが不要になる
- 育成コストも不要になる
それぞれのメリットについて解説します。
初期費用を抑えられる
店主が一人で営業する際の飲食店の一般的な規模は、面積が10~15坪程度、座席数は10席程度です。
飲食店の開業にかかる費用は、物件取得費・内装工事費・厨房機器費・什器や備品費などが挙げられます。これらの費用は店舗規模が大きくなるほど高額になり、規模が小さいほど抑えられる傾向にあります。
初期費用を少しでも抑えたいと考えているのであれば、居抜き物件を選択したり、中古の厨房機器を購入したり、DIYで内装を仕上げたりと工夫してみてはいかがでしょうか。
雇用手続きが不要になる
従業員を雇う場合には、雇用形態に関わらず、税務署に給与支払事務所等の開設届出を行う必要があります。
そのほかにも雇用契約書や労働条件通知書、健康保険・厚生年金被保険者資格届、雇用保険被保険者資格取得届など、さまざまな書類の作成・提出が必要です。書類によって提出先が異なるため、税務署のほかハローワークや年金事務所へも足を運ぶ必要があります。
これらの書類の作成・提出を怠れば、懲役または罰金が科されることもあるため、必ず行わなければなりません。しかし、店主が一人で営業する場合、従業員雇用に関するこうした複雑な手続きは一切必要ありません。
育成コストも不要になる
従業員を雇うと、教育や管理といった業務負担が発生します。飲食店での就業経験がある従業員だとしても、自店舗にあわせた接客が必要であるため、あらためて教育しなければなりません。
いくら料理の味がよくても、従業員の接客によってはクレームに発展するおそれもあるため、しっかり教育する必要があります。従業員の数が増えれば増えるほど、こうした教育や管理の業務負担は大きくなります。
対して、店主が一人で営業する場合、従業員の教育や管理といった業務は一切発生しません。従業員の給料や生活のことを考える必要がなく、気楽に営業できる点がメリットだと考える人もいます。
一人で開業することのデメリット
一人で飲食店を開業するには、メリットだけでなくデメリットもあります。主なデメリットは、以下の3つです。
- ワンオペを覚悟する
- 売上に限界がある
- 接客の質が下がる可能性がある
開業後に後悔することのないよう、デメリットについてもきちんと理解しておきましょう。
ワンオペを覚悟する
従業員を雇わず店主が一人で営業することは、雇用手続きや育成コストが不要になるといった大きなメリットがありますが、何があっても一人で営業しなければならないという過酷さも持っています。
どんなに忙しくても、調理だけでなく洗い物や接客も一人でこなさなければならず、体調を崩したときには休業するほかに選択肢がありません。効率よく作業できる方法を見つけるだけでなく、体調管理を徹底するなど、お客様には見えないところでの努力も必要です。
売上に限界がある
一人で営業できる店の規模は限られているため、売上にも限界があります。限られた規模で利益を増やすためには、客単価の向上や効率化を図る必要があります。
たとえば、高価な食材を使用した限定メニューや、メインのメニューとともに注文しやすいトッピング・サイドメニューを増やすといった工夫が挙げられます。そのほか、券売機やキャッシュレス決済を導入して、接客業務の負担減少を図るとよいでしょう。
接客の質が下がる可能性がある
一人で店舗を営業していると、オーダーから調理、提供、会計、洗い物まで、すべて店主が対応しなければなりません。そのため、料理の提供に時間がかかってしまう、お客様とコミュニケーションがとれないなどの理由から、接客の質が維持できない可能性があります。
接客の質の低下は、離客やクレームにつながるおそれがあります。客席はカウンターのみにして、料理の提供や片付けをスムーズに行えるようにするなど、店舗のレイアウトを工夫することも大切です。
一人で飲食店開業するためチェックポイント
一人で飲食店開業する前に、しっかり確認・準備すべきことは以下の3点です。
- 準備すべき資金
- 必要な届出
- 物件や設備
それぞれ詳しく解説します。
準備すべき資金
飲食店を開業するうえで何より大切なものは、開業資金です。店舗規模や内装デザインなどによって必要な資金は異なりますが、店主が一人で営業する規模の飲食店であっても、開業にはおおよそ1,000万円程度の資金が必要とされています。
民間企業の調査によると、飲食店の開業から軌道に乗るまでは「4~6か月程度」「7か月~1年程度」といった回答が半数以上を占めています。このことから、運転資金は半年~1年分ほど余裕を持っておく必要があることがわかります。
そのため、少しでも開業資金を抑えたいのであれば、居抜き物件を選ぶという選択肢もあります。居抜き物件は、内装・外装工事費のほか、厨房設備や什器・備品購入費などが抑えられるため、初期費用を抑えて開業するうえで非常に有力な選択肢となるでしょう。
必要な届出
前述で解説した資格のほかに、飲食店の開業時にはいくつかの届出が必要です。必要な資格・届出をまとめて紹介します。
資格・届出の種類 | 概要 | 費用の目安 | 提出先 | スケジュール |
---|---|---|---|---|
食品営業許可申請 | 営業形態に問わず、飲食店であれば全店舗申請が必要です。所在地を担当する保健所に申請します。 | 16,000~20,000円 | 所在地の保健所 | 営業開始前の10~14日前 |
防火管理者選任届 | 収容人数が30人を超える規模の店舗は申請が必要です。所在地を担当する消防署に申請します。 | 無料 | 所在地の消防署 | 営業開始前 |
防火対象設備使用開始届 | 建物や建物の一部を新たに使用する場合は申請が必要です。居抜き物件であっても、新しい借主が入居する場合は申請しなければなりません。所在地を担当する消防署に申請します。 | 無料 | 所在地の消防署 | 使用開始前 |
火を使用する設備等の設置届 | 火を使用する設備を設置する場合は申請が必要です。そのため、ほとんどの飲食店は申請しなければなりません。所在地を担当する消防署に申請します。 | 無料 | 所在地の消防署 | 設備設置前 |
深夜酒類提供飲食店営業開始届出書 | 深夜0時以降もお酒を提供する店舗の場合は申請が必要です。所在地を担当する警察署に申請します。 | 無料 | 所在地の警察署 | 営業開始前 |
風俗営業許可申請 | 接待と遊興または飲食を提供する店舗、飲食を提供する飲食店、客席が10ルクス以下の低照度、外から見えづらい5㎡以下の区画席などの特徴を持つ店舗の場合は申請が必要です。所在地を担当する警察署に申請します。 | 24,000~30,000円 | 所在地の警察署 | 営業開始前 |
個人事業の開廃業等届出書 | 個人で開業する場合は申請が必要です。所在地を担当する税務署に申請します。 | 無料 | 所在地の税務署 | 営業開始後1か月以内 |
物件や設備
店舗の売上を左右する要因は、味や価格、接客などさまざまですが、そのなかでも物件(立地)は重要なポイントのひとつです。味や価格、接客は営業していくなかで変化させられますが、物件は一度決めてしまうと安易に変更することは難しいためです。
物件選びに後悔することのないよう、物件を探す際には飲食店のテナント開業サポートのプロに同行してもらうことをおすすめします。また、居抜き物件を選ぶ際は、一人でもスムーズに営業できるかという点を重視し、動きやすさや動線を確認しましょう。
さらに、一人で営業することを考えて、タッチパネル注文や食券機、高性能の食器洗浄機など、業務の効率化を図れる設備の導入も検討ください。
こちらの記事では、飲食店の開業にあたって事前に知っておきたい知識について総合的に解説しています。小さな飲食店の開業資金はどれくらい必要なのか、自己資金0でも開業できるのか…など、さまざまなお悩みにお答えします。
一人で飲食店開業を成功させるためには
飲食店は廃業率が高く、継続・成功させることが難しい業種です。しかし、そんななかでも成功させるためのコツを掴めば売上アップにつながります。
以下では、一人で飲食店開業を成功させるためのコツを紹介します。
メニューを工夫する
一人で飲食店を営業すると、調理や提供から洗い物、接客など、すべて一人で対応しなければなりません。飲食店ではスムーズな提供ができるかどうかが成功の鍵となるため、一人ですべて対応することを想定したメニュー作りが必要です。
たとえば、メニューを限定する、すぐに提供できる作り置きメニューを増やすなどは、開業当初から実施できる工夫のひとつです。
セルフサービスを導入する
一人で飲食店を営業する場合は、以下のようなセルフサービスを導入して効率化を図ることも必要です。
- 発券機やタッチパネルで注文してもらう
- 水はウォーターサーバーやピッチャーを設置する
- キャッシュレス決済を導入する
水の提供や注文、支払いをセルフサービスにするだけでも、業務負担は大幅に削減可能です。浮いた時間を調理に充てられるため、料理をスムーズに提供できるようになるでしょう。
初期費用を下げる
前項で解説したとおり、飲食店では開業から軌道に乗るまで半年~1年くらいは見ておく必要があります。場合によっては1年以上かかることもあるでしょう。余裕を持って、軌道に乗るまでの運転資金を準備しておきたいものです。
運転資金に余裕を持つためには、初期費用を極力抑えることがおすすめです。開業資金のなかでもとくに大きな割合を占めるのは物件取得費のため、いかにこの費用を抑えつつ、条件のよい物件を用意するかがポイントとなるでしょう。
そこで注目したいのが「居抜き物件」です。居抜き物件は、店舗にかかる初期費用を大幅に抑えられるといった強みがあることはもちろん、前テナントの認知度をある程度受け継ぐため以前の顧客も取り込みやすく、開業にかかるコストを早めに回収できる傾向にあります。
まとめ
一人で飲食店を開業するうえで必要な資格・申請は、主に営業許可申請・食品衛生管理者・防火管理者です。また、業種や店舗の営業スタイルによっては、深夜酒類提供飲食店営業開始届出書や風俗営業許可申請なども必要です。
飲食店を開業する際には、どれくらいの規模でどういった営業をしていくのかなどコンセプトを決めてから、物件探しや準備を進めることをおすすめします。
また、飲食店を成功させるためには、なるべく初期費用を抑え、運転資金に余裕を持っておくことも大切です。初期費用を大幅に抑えつつ良質な店舗物件をお探しであれば、居抜き物件を探してみましょう。
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